輝く町
「よし、宿の場所はわかった。少しぶらつこう」
「待ってたぜ!」
商業地区についた二人は店を見て回った。多くの商売人たちが流れ込んできたため、商業地区には多くの店が揃っていた。武器屋や道具屋、雑貨屋に賭博場など幅広く展開された通りは、一つ一つを見て回るだけで一日が終わる程の数だった。さらに店の看板は派手なものが多く、光り輝いているため、夜にも関わらずこの地区は明るかった。
「すげぇ、すげぇ……」
ハヤブサは目と足を回しながら語彙力を喪失したように「すげぇ」と繰り返していた。
「なぁ、なんであの看板光ってるんだ、炎は灯ってないぞ!」
「光る魔法があるんだよ、今は雲が覆ってるけど太陽の光を吸収して夜光るやつもあるらしい」
「だから赤とか青とかすげぇ色で光ってんのか!」
ハヤブサは口をぽかんと開けたままふらふらと周りを眺めていた。
「俺は魔法陣を買いたいから、武器屋とか道具屋に行ってくる。ハヤブサは迷子にはなるなよ」
「いや、ついていくよ! 迷子になっちまうから」
ハヤブサは勇者の隣を歩いた。
「隣歩くなら、口を閉じてくれ」
勇者に指摘され、口を閉じるようになったハヤブサだったが、今度は口をパクパクさせるようになる。勇者は半歩前に出て他人のフリをして歩いた。
「あら、お兄さん、寄ってかない?」
バーの客引きのようで、女は勇者の顔を覗き込む。草原で出てきてもおかしくない顔をした女だった。勇者は「ここが町で良かったな」と心の中で吐き捨て無視をした。
「うわ、バケモノ!」
半歩後ろでハヤブサの悲鳴が聞こえる。勇者は他人のフリをしているので足を早めた。
目当ての物を買い、最近の商売事情を聞き回った勇者は宿に向かった。ハヤブサは目が回って頭が痛いと訴えていた。
「ようこそ、ホテルグランドへ」
「ホテル?」
ハヤブサが聞き返す。
「宿屋の洒落た言い方だよ」
「国王様から特上のルームをご案内するようにと」
勇者らは家族で暮らせる程の広さの部屋に案内される。赤い絨毯に大きなベッド、暖炉まで付いており、大きな風景画が壁に飾られている。
「すげー!」
ハヤブサは部屋中をダガーを振り回す時のように走り回っていた。
「少しは大人しくしてくれよ」
「こんな経験めったにできやしないんだ、いいだろう?」
しばらく騒がしく走り回るハヤブサだったが、トイレに入り静かになった。勇者は小さくため息を吐くと、ベッドに腰掛け魔法陣を広げた。
村から持ってきた羊皮紙の魔法陣の魔力を解除すると、たくさんの武器が転がった。
武器や道具は魔法陣を繋ぐことで道具に陣印という印がつき、対応した魔法陣にしまうことができる。村から持ち出した魔法陣は商い向けで、大量の物をしまい込めるが、出すときの魔力が大きく、戦闘向けではない。
勇者はいくつかの武器を買った魔法陣に移す作業を始めた。
「おおおおおお!」
ハヤブサが叫び声を上げ、勇者は舌打ちをした。
「出産かよ。何だよ、ハヤブサ!」
「トイレがすげぇ! 水が! 風が! お湯が!」
勇者は返事をやめ、魔法陣の作業に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます