宝箱の中身2

 骸骨の振り上げた腕が地面に落ちる。斧と一緒に落ちた腕は粉々になった。

「なんだ」

 骸骨は消えた腕を眺めていた。勇者も同じ感想だった。

「大丈夫か!」

 勇者の横から声が聞こえる。声の主はハヤブサだった。両手にダガーを持ち、目を閉じて深呼吸をしている。

「お前、どうやって」

 勇者がたずねるが返事はない。

「ここは割と広い。ここは割と広い。大丈夫。大丈夫大丈夫大丈夫……」

 ハヤブサはガタガタと体を震わせながら呪文の様に繰り返していた。

「よく通路を通れたな」

「目を閉じて走ってきた」

 ハヤブサは「あああ!」と叫びながら目を開けた。気合を入れているらしい。

「だ、だだだ大丈夫。ここは明るいし、広いから問題ない。圧迫感で呼吸ができないだけだ」

「それは大丈夫なのか」

 大きな音が鳴り、二人はそちらを見た。骸骨がもう片方の腕で斧を持ち上げた音だった。

「やるではないか」

 骸骨が斧を持ち上げるより先に、ハヤブサは攻撃を仕掛けた。素早い動きで接近し、ダガーで切り抜けるが、腕は落ちない。骸骨は少しだけよろめいた。

「硬ぇぞ!」

「さっきのは、俺が銃で撃ったからだ」

 勇者は剣を持ち直し、骸骨を睨みつけた。ハヤブサの俊敏な動きは敵との相性が良い。上手く援護に回らなければ。

 ハヤブサは余裕の笑みで飛び跳ね、リズムをつけていた。

「安心しろよ! 終わらせてやるから!」

 ハヤブサは飛び込むように地面を蹴り、骸骨に突進した。だが、骸骨は斧を捨て、片腕でハヤブサを捕らえた。骸骨の手がハヤブサの喉を締め上げる。ハヤブサはダガーを離し、手を解こうと必死だった。

「このまま首を折る」

 骸骨は「ひひひひ」と笑った。ハヤブサは脚を使って抵抗していたが、仰け反りすらしなかった。

 銃では狙えない。勇者は剣を両手で持ち、骸骨の腕を狙った。鈍い音が響くが、腕は落ちない。締め上げられているハヤブサが口をパクパクさせ始める。勇者は再び切りつけた。

 勇者の三度目の攻撃で腕は落ちる。ハヤブサは咳き込みながらも飛び退いた。すると、骸骨は地面を思い切り踏みつけ、斧の時のような衝撃波を放った。腕の攻撃に集中していた勇者は勢いよく吹き飛ばされた。

 勇者は地面を転がりながら思考を巡らせていた。あの骸骨は、耐久力自体はさほどない。だが、ずば抜けた攻撃力の高さがそれをカバーしている。初戦で戦うには無理のある相手だった。

「無事か!」

 勇者が声を上げると、骸骨の背後から「ああ!」と返事が来た。しかし、ハヤブサの武器は骸骨の足元に転がっている。

「馬鹿め」

 骸骨から斬り落とした腕がふわふわと浮き上がり、元の位置に戻った。偶然斧で潰した最初の腕のように、粉々にしなければ元通りになるようだ。通常の攻撃では不死身。前勇者が倒すのを諦めた理由がわかった。

「我には勝てぬ」

 勇者は懐の魔法陣に手を伸ばしながら考える。持ってきている武器は他にもあるが、短銃を出すのに魔力を使っているため、選択肢は少なかった。おそらく、ダガーや弓が限界だろう。先程の短銃は衝撃でどこかに飛ばされてしまっている。

 爆弾があるが、それを出せば魔力は尽きてしまう。バラバラにするだけでは意味のない相手には難しい選択肢だった。

「う、うう……」

 武器屋の男が頭を押さえて起き上がる。そして、骸骨を見て唖然としていた。

「これは一体っ!」

「お前が開けた宝箱から出てきたんだよ!」

「そんな!」

 骸骨が片腕を地面に叩きつける。洞窟は激しく揺れ、岩の破片が四方に飛んだ。勇者らはそれぞれ攻撃を受けてしまう。

「おい、あと何が出せる?」

 勇者は武器屋の男に叫ぶ。

「えっ?」

「魔法陣だ! あと何が出せるくらい魔力がある?」

「もう出せない! あのデカイ斧に全部持って行かれた」

 男の言葉に勇者は舌打ちした。もうどうしようもない。勇者は諦めて爆弾を召喚した。それを見た男が大声を上げる。

「おい、あんた、それ爆弾か! そんなもん使ったらみんな死んじまうぞ!」

 男の声にハヤブサが反応する。

「爆弾か! 最悪の手段だが、仕方ない!」

「何? おい、ハヤブサ、お前いつの間に、それに賛成する気か!」

「ここで俺たちが死ぬのと、コイツが村に出て皆が死ぬのとどっちがいい?」

 ハヤブサの言葉に、男は黙り込んだ。二人のやりとりを聞き流しながら、勇者は考えていた。

 前の勇者はどうやって、宝箱にあいつを戻したんだ。いや、オロチを一撃で仕留める程なのだから、バラバラにして戻したのだろう。では、宝箱に戻されたあいつはどうして出てこられないんだ。

 勇者は骸骨の出てきた宝箱を見た。崩れた壁の下から見つかったというのに、傷一つなく輝いていた。

「あの宝箱、かなり頑丈だな」

 勇者が言うと、武器屋の男も宝箱を見た。

 骸骨は地面を殴り、衝撃波を放つ。三人は壁に叩きつけられてしまう。

「……なぁ、あんた、爆弾を俺にくれ」

 男は勇者に手を差し出した。

「自分で蒔いた種だ、責任を取る。子供まで危険な目に遭わせたくない」

「あんた、死ぬ気か」

「あんたを殺そうとした罰だ……貸してくれ。二人とも、俺が奴ごと自爆する! だから、その宝箱に隠れてくれ! もしかしたら助かるかもしれない!」

「宝箱に? 無理だ無理! こんな狭いところ入れねぇよ! それに爆発したらどのみちここは崩れちまうだろ!」

「ここは広い、そこまで崩れはしないはずだ。骸骨の今の攻撃でも崩れないんだぞ!」

 男の言う通りだった。爆弾は、洞窟の通路を塞ぐか、壁を崩すかくらいの威力だろう。

「それじゃ、どの道駄目だろ! だったら通路を塞いで逃げようぜ!」

 骸骨が再び地面を蹴った。衝撃が三人を襲う。衝撃に吹き飛ばされながらも、勇者はようやく短銃を発見し、懐にしまった。

「あの威力だ、塞いだって出てくるだろ。それよりも、作戦がある、全員死ぬ気で行くぞ!」

 爆弾を握りしめ、勇者は叫んだ。

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