宝箱の中身

 武器屋の男が突然消えた。

 宝箱を開けた瞬間に、男は視界から消え去った。同時に大きな音が後方から聞こえる。勇者が振り向くと、武器屋の男が壁に叩きつけられていた。

 宝箱から不気味な笑い声が聞こえる。

「ひひひひ。掛かったな。強欲な愚者よ」

 宝箱の中から、何かが飛び出した。勇者が凝視すると、それは骨だとわかった。骸骨だ。宝箱から骸骨が現れた。

「うむ? 前のやつとは違うな。前のやつはすぐに逃げ出したからな。まあ、賢明な判断だった。オロチごときしかおらぬ洞窟に、我のような強さを持つ者が現れるとは思うまい」

 骸骨はゆっくりと喋り終えると、「ひひひひ」と笑い続けた。

 勇者は骸骨を見ながら、以前船に乗った時に聞いた、旅人の話を思い出していた。

 モンスターは地域的に生息しているため、争うことはないにしろ、強さは拮抗している。だがしかし、稀に飛び抜けて強いモンスターがいると。旅人たちは地域のモンスターの強さに高を括り、戦いを挑んで痛い目に遭うという。

「そういう奴に出くわしたら逃げるしかない。どうしても戦いたかったらもっと強くなってからまた来るんだ」

 旅人はそう言って笑っていた。勇者もその時は何も考えずに聞いていたが、今目の前にいるものからはそれを裏付けるような明らかな強さが滲み出ていた。前勇者は勝てないと判断し、宝箱ごと岩に埋もれさせたのだろう。

「逃げろ、俺たちじゃ勝てない!」

 勇者が叫ぶが、武器屋の男は身体中を押さえてうずくまり、少女は恐怖で固まっている。

「誰が、我と戦うのだ?」

 骸骨は勇者を見ながら囁いた。狙いはすでに定まっているらしい。勇者は少女に声をかけた。

「お前! 洞窟の入口に逃げろ! ハヤブサがいるから、事情を説明して助けを呼ぶかここを塞ぐかしてこい!」

「え、でも!」

「皆死ぬぞ!」

 勇者が怒鳴ると、少女は立ち上がり、走り出した。骸骨はそれに目もくれなかった。

「さあ、始めよう」

 骸骨はゆっくりと歩き出した。そして、先ほど武器屋が出した大きな斧を片手で拾い上げる。

「旅が始まる前に終わるな」

 勇者は自嘲気味に呟くと、剣を握りしめ斬りかかる。骸骨は躱すこともなく無抵抗で斬られた。勇者は思い切り何度も剣を振ったが、手応えはあれど実感を得られない。骸骨はゆっくりと斧を振り上げる。勇者は後ろに飛び、距離を取る。

 骸骨が斧を振り下ろすと、洞窟全体が揺れた。地面を割った衝撃で飛んできた岩の床の破片が勇者に襲いかかる。さらに距離をとるが間に合わず、破片が数発体に当たってしまう。

「!」

 勇者は、武器屋のように後ろに吹き飛ばされてしまう。破片が当たっただけでかなりの痛手を負わされてしまった。勝ち目が遠ざかっていくのを感じる。勇者は頭の中で愚痴を吐き出した。

 まだどこかの城にも辿り着けてないってのに、俺はここで死ぬのか。新しい勇者って名前だけもらって、こんな隠れモンスターみたいな奴に消されちまうなんて……。貧乏くじどころじゃねぇよ。

 勇者は舌打ちをした。

「わかったろう。我との強さに差が。ここで死ぬのが宿命だ」

 骸骨は「ひひひひ」と笑いながら再び斧を振り上げた。

 勇者は魔法陣から短銃を取り出すと、骸骨に向けて発射した。大きな音が鳴り響いたが、骸骨への効果は小さかった。

「無駄だ」

 骸骨の腕はゆっくりと上を向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る