空洞の怪物

 勇者が宝物庫に辿り着くと、そこには少女と男がいた。宝物庫はかなり広く、周りを囲うように燈台があり、明るかった。

「こっちに来るのか」

 男は筋骨隆々で、獣の毛皮のようなものを身に纏い、不敵に微笑んでいた。少女は先ほどの少年と似たような格好をしている。少女は囚われている様子はない。

「オロチはもう、酒瓶の中だからな。モンスターはどこにいる?」

 勇者がたずねると男は笑った。

「いねぇよ、そんなもん。バケモノどもはみんな、勇者が倒しちまったからな」

「そこの子が帰ってこないって騒ぎになってるんだよ。男の子にもそこで会った。怖い怪物がどうとか」

 勇者の言葉を受け、男は少女の肩を抱いた。

「そうだ。ここは再び、バケモノの棲む洞窟になる。平和ボケした観光客には消えてもらう」

 男はダガーを取り出してそれを右手で弄び始めた。

「空を見ろ。ドス黒い雲はまだ晴れてねぇ。もっと危機感を感じるべきなんだ」

「それで、モンスターのデマを流すのか。そんなことをして何になる?」

「武器が売れる」

 男はダガーを壁に投げつける。太い腕から投げられたダガーは大きな音を立てて突き刺さる。

「俺は……武器屋だ」

 男は懐から鎌を取り出して、くるくると回した。

「モンスターが消えたおかげで武器の価値は消えた。だからこの洞窟に化け物がいると思わせる。そのために子供達に騒いでもらったのさ」

 武器屋は少女の頭を撫でた。その姿を見て勇者は納得する。先ほどの少年が突然、気配を発して騒いでいたのは、勇者を見て演技を始めたからなのだろう。

「モンスターがいなきゃ、いずれバレるだろ」

 勇者が言うと、少女が笑った。

「前例があればいいの。私を助けに来た貴方は怪物に殺された。貴方の命と引き換えに私は逃げられた。言ってる意味、わかるでしょ?」

 少女は数歩下がり、空の宝箱に腰掛けた。

「初めての戦闘が人間ってのは嫌だな」

 勇者は顔をしかめながら剣を構えた。その言葉を聞いた男が嘲笑する。

「は、ろくな経験値も得られずにここまで来たか。安心しろ、お前を殺したのは怪物ってことにしてやるから」

「俺からすりゃお前らの方が、きっとそこらのモンスターより怪物だ」

 勇者が言い終わるより前に、男は鎌を構えて走り出した。

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