第二章 旅の始まり

閑散とした野原

「さて……」

 勇者は声を出す。最初の目的地は隣の村だった。そこには大きな蛇のモンスターが住む洞窟が近くにある。正確には、あったらしい。

 さすがにただの村人がいきなり魔王の元に向かうわけには行かず、勇者の軌跡を辿りながら旅をすることに決めた。

 村までは昼までには到着できるだろう。勇者は辺りを見回した。

 何もいない。聞こえてくるのは植物の揺らぐ音だけである。モンスターのモの字も見つけられない。

 ある意味生態系の破壊を目的とした前勇者の行動は次世代の芽を摘むことに成功していた。

 数年前までは、この地域にはゲル状のモンスターや巨大なイノシシのようなモンスターが彷徨いており、外に出ることを止められた。

 しかし、今はただの草原である。二年前、モンスターたちの屍に溢れたここは、それらが土に還ったためとても栄養価の高い土となった。今では綺麗な花畑や、近くに住む勇気ある村人の畑とかしている。

 勇者は手に持っていた剣を腰の鞘に収めた。

 これで良いのだろうか。なんの戦闘もせずに隣の村へついても良いのだろうか。「よくぞここまで」などと言われても「いやぁ」としか言い返せない。

 勇者はわざと道から外れた草原を歩いていた。草むらに足を突っ込んだり、林を覗いたりもした。しかし、気配どころか足跡も見つからない。前勇者は子孫から根絶するほどのオーバーキラーだったらしい。

 前勇者がここを通り二年が経つというのに、生態系は回復していなかった。焼け野原になるわけでもなく、ただモンスターがいないという空間が異常さを際立たせていた。

 勇者は冷静に考えていた。ここを通った時は、前勇者には仲間もいなかったはずだ。にも関わらず、ここ一帯のモンスターを絶滅に追いやっている。一人で手にしたばかりの剣を振り回し、ゲル状やイノシシを皆殺しにして回ったというのか。恐れ入る。

 隣の村まではかなり歩くと思っていた勇者だったが、モンスターを探しながら歩いているうちに村が近くにあることを告げる看板を発見した。

 結局、何も起こらず誰にも会わず、勇者は太陽が真上に来る前に村についてしまった。

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