平和な村
村に到着すると、勇者は驚いた。
村は賑わっていた。観光地として。
「勇者が倒したオロチの洞窟探検ツアー」
「勇者が使っていた初期装備展示してます」
「毒消し草の詰め放題やってます」
村は勇者に最初に救われた村として大々的に売り出していた。多く人々が村を行き交い、かなり騒がしかった。
「どうしたんだい、そんなところに突っ立って」
気の良さそうな女が勇者に声をかけた。勇者は事情を説明する。
「へぇ、あんたも大変だね、うち、宿屋やってるから休んで行きなよ!」
女は勇者の背中を叩くと大きな声で笑った。勇者は礼を言ってついていく。
「二代目勇者サマ、ねぇ。空以外は平和だってのに面倒なことをさせるんだね」
「全くもってその通りだと思う」
勇者はため息をついた。その様子を見て女は笑う。
「貧乏くじ引かされたって顔だね。まあ、世界は平和なんだし、お使い気分で行けばいいじゃないか」
「勇者の名が泣くよ」
「違いないね!」
宿屋の一階は、勇者の村と同様、酒場にはなっていた。まだ昼だったので宴会は始まっていなかったが、宿泊客が昼食を取っている姿がちらほらと見える。
酒場のカウンターには大蛇の切り身のようなものが入った大きな酒瓶があった。勇者が近づいて見ると、「洞窟のオロチ酒」と書かれてある。こんなところで、初めての魔王の幹部を見ることになるとは光栄だった。
「一太刀でバッサリらしいよ。自慢の毒の牙も使えずにやられたらしい」
女は酒瓶をつついた。勇者は黙って頷く。そりゃそうだ、あれだけのモンスターを殺して回ったのだから、洞窟のオロチなど敵ではないはずだ。
「この村は平和だよ」
女は言う。
「前の勇者サマが何もかも片付けてくれたよ。この村に来た時にはもう貫禄があったね。なんでも、あんたのとこの村を出て一週間もかけてここに来たらしいよ」
勇者はそれを聞いて寒気を感じた。前勇者は一週間もあの草原で剣を振り回し続けていたのか。狂気の沙汰だ。ゲル状の奴よりもよっぽどのモンスターじゃないか。
「だからみんな感謝してるんだ。凶暴なモンスターも消えてたくさんの人がここに来てくれるようになった」
女は嬉しそうに語る。たしかに、ここの村人たちは生き生きとしていた。モンスターに襲われることのない平穏が、この村の活気に繋がっているのだろう。
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