新しい勇者

 翌朝。青年は両親と食卓を囲んでいた。

「朝ご飯だけど、張り切って作っちゃった!」

 無理に笑顔を作る母は見ていて痛々しかった。何かしていないと気が済まないのだろう、夕食より豪華な朝食が並べられていた。

「母さん、こんなに食べられないよ」

 青年は笑ってみせる。すると、母も深呼吸をして微笑んだ。その顔はいつもの母だった。

「まさかお前が勇者になるとはな」

「同じこと俺も思ってるから」

 青年は食事をしながら、母の料理がしばらく食べられないのは寂しいなと考えていた。

「船にある荷物で、使いたいものがあったら持って行ってくれ。武器はほとんど売ってしまったけどな……」

「昨日のうちに見てきたよ」

 朝食を済ませ、三人で村の入口に向かった。青年は歩くのが遅い二人を置いていってしまうので何度も立ち止まった。歩くのを渋っているのを理解し、青年は何も言わなかった。入口に到着すると、両親は複雑な表情のまま青年を抱き締めた。

「生きて帰ってこい」

「死にたくはないからね」

「愛してるわ」

「死んじゃうみたいだからやめよ」

 入口にはたくさんの村人が集まっていた。青年は目で少女を探したが、見当たらない。そこへ、兵士たちが現れる。

「勇者よ、健闘を祈る。これを持っていけ」

 酒臭い息を吐いた隊長は金貨の入った袋を渡してきた。青年は中を確認すると、懐に入れる。両親からもらった分と合わせれば、しばらくは大丈夫だろう。

「頼んだぞ」

 青年は隊長の言葉を無視し、村人たちに手を振った。

「ちょっと行ってくるから」

 村人たちからたくさんの応援の言葉が飛び出す。青年は小さな高揚感を覚えながらも顔には出さず頭を下げる。

「待って!」

 少女が走り寄り、青年に飛びついた。青年は動揺する。

「な、なに?」

「私の家に伝わるお守り。持ってって」

 少女がは小さな青い石の首飾りを青年にかけた。青年は少し期待して黙っていたが、少女はそれ以上何もしてこなかった。

「ありがとう、行ってくる」

 青年は皆に背を向ける。背中にはたくさんの応援の言葉が投げつけられた。

 とんだ災難だが、旅をするのは好きだった。父と船に乗り、色々な人から様々な話を聞いた。それを今からこの目で見れると思うと少し楽しみだった。

 一度深呼吸をすると、勇者は歩き出した。

 

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