国王の願い

 青年が家に向かっていると、案内大好き男が初めて村に来たであろう集団に嬉しそうに村を案内していた。

 村ではやることがなくなると、一見様への対応をテンプレート化する風潮がある。隣の村には毒消しの効能がある草を執拗に渡してくる拗らした老人がいるらしい。

「もうよい。礼を言う」

 集団のリーダーが頭を下げる。十人程いる集団は全員が鎧を身に纏っている。鎧にはデカデカと都市部の帝国の刻印が刻まれていた。

「すまないが、村の代表を読んできてはもらえないだろうか」

「良いですよ、今、村長を呼びますね」

 男は小走りで去る。青年も立ち去ろうとすると、鎧のリーダーに声をかけられた。

「そこの若いの! すまないが、ここに村の者を集めてもらえないか?」

「すみません、夕飯が」

 青年は無視して歩き出す。予想外の反応だったのか、鎧の男は動揺して声を荒げた。

「おい! 私はこの国一帯を収める王に仕える者だ。国王からの名を伝えに来た! 早う、ここに村中のものをかき集めて来い!」

「いや、ちょっとそういうのは」

「命令だ!」

「多分どこも食事刻なので、終わったらにしましょうか」

「今呼べ!」

 青年は舌打ちした。

 なんでさっきの男にまとめて頼まないんだ。国のお堅い人は要領が悪くて困る。

「隊長。少しわからせてやりましょう」

 集団の中から、屈強な男という言葉がよく似合いそうな男が出てくる。

「国王に刃向かうということが、どういうことかわかるな?」

「はいはいはい。呼べばいいんでしょう」

 青年は懐から笛を取り出して、思い切り息を吸った。

 口をつけると笛は大きな音を立てて村中に響いた。すると村のあちこちから、武器を持った村人が次々と現れた。

「な、なんだ!」

「呼べっつったんでしょ。モンスターが来た時にみんながすぐに武器持って出て来れる、防犯用の笛です」


「国王はこの現状を打破するために、新たな勇者を用意することになった。なので、前勇者の出たこの村に我々が出向いたわけだ」

「そうでしたか……」

 村長が静かに呟いた。村の者たちも皆、同じような反応をしている。

「ですが、勇者様はきっと魔王を倒し、帰ってきてくれるはずです!」

 村の勇者信者が声を荒げた。そうだそうだと続く声の中に、青年が想いを寄せる少女もいた。

「きっと。そんな言葉を信じてもう一年が経つ。もう限界だ」

 隊長は声を張り上げた。

「あんたら兵隊が行けばいいだろう、強いんだろ!」

 村人の一人が言い放った。そうだそうだと続く声の中に、青年もいた。

「我々は国王を守らなければならない」

 少年は舌打ちした。偉そうなやつは大抵話が通じない。

「この村はあの勇者のいた村だ。我こそは二人目の勇者となる者はいないか!」

 ボランティアの徴兵制度など、誰が行くものか。青年の心の呟きに同調するように、村人たちは黙っていた。

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