第124話「爺ちゃんの戦争前後③」
「ミズキ君、これ見てみなよ、誰だか分かる?」
と、言って爺ちゃんは、古ぼけたセピア色の写真を見せてきた。
制服を着ている男の人で……
「……?誰って、親父じゃん!学生の頃かな?」
と、僕が言うと、爺ちゃんはニヤニヤしていた。
「良く見ろよ、爺ちゃんだよ!!」
「えっ~、親父そっくり~!」
と、僕がびっくりしていると……
「まあ、親子だからなあ……」
と、爺ちゃんは遠い目をした。
「爺ちゃんが戦争から帰ってから、かなめん君の親父さんが生まれたんだよ」
と、爺ちゃんは言った。親父は昭和22年に生まれた。
「親父さんが、2、3歳の頃、結核になってなあ。大変だったよ」
と、爺ちゃんは言って、僕が返した写真を眺めた。
「咳が止まらず、胸がヒューヒュー言うんだよ。そのうち熱が出てなあ。慌てて医者に連れてったら、肺炎って言われて、色々と検査したら、結核って言われてなあ。注射打てば助かるけど、注射が高くて高くて……」
「高いって!?」
と、僕は聞いた。
「ああ、給料の2ヶ月分だったんだよ。貧乏だったから、どうしようか考えたよ」
「考えたって?」
「もう見捨てようかと、本当に考えたんだよ……」
「…… 」
「でも可哀相なんで、そんな訳にもいかず、とにかく金を集めて、ペニシリンを注射してもらったんだよ」
当時、ペニシリンは万能薬として出回っていた。しかしとても高価なものだったのだ。
「その頃から、婆ちゃんには服飾の内職をしてもらって、生計をたてていたんだよ。ほら下に(一階に)あるだろ?足踏みミシンが!あれで、婆ちゃんが内職していたんだよ」
僕の家の一階の端には、僕が生まれる前から使っていた足踏みミシンが、台のかわりにおいてあった。僕が保育園児の頃は、その踏み台に隠れて遊んだものだ。その足踏みミシンに、そんな秘密があったなんて!その時、初めて知ったのだった。
おしまい。
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