第123話「爺ちゃんの戦争前後②」
「俺たちは、1銭5厘の命だって言ってなあ……」
と、言って爺ちゃんは、タンスの引きだしから、古ぼけた朱色の紙を出して来た。
「ミズキ君、これなんだか分かる?」
「???」
難しい字ばかりで、僕は読めなかった。
「赤紙って言って、本当の名前は召集令状って言うんだよ。ほら赤いだろ、だから赤紙って言ってたんだよ。」
と、爺ちゃんは、お茶をすすりながら言った。
「お前ら召集された兵隊なんてな、一銭5厘の価値、赤紙の値段しかないんだ!だから代わりはいくらでもいる!!って、よく上官になぐられたもんだ……」
ある日、一枚の紙が来て、いついつまでに集合しろ!というのだ。
「みんなに見送られて、汽車に乗ったんだよ」
と、爺ちゃんは言うと、またタンスから、なにやら出して来た。それは古く黄ばんだ布だった。広げると、なんと戦艦のプラモデルで見たのと同じ、旭日旗(きょくじつき)だった。いや、違った!よく見ると違っていて、日の丸に向かい、みんなの名前が寄せられているものだった。だから日章旗(にっしょうき)だった。それを見て……
「みんなに見送られて、爺ちゃんは嬉しかった?」
と、僕は聞いた。
爺ちゃんは、僕から目をそらし黙ってしまった。しばらくして……
「戦争には、行きたくはなかったが、行く時はそれが、みんなの為だと思っていたんだよ……」
「逃げられなかったの?」
と、聞くと……
「逃げた奴らもいたけど、憲兵につかまったら最後だったんだよ。それに、そんな事したら、家族が大変になっちゃうんだよ」
「???みんなで逃げられないの?」
「逃げられないんだよ……」
幼い僕には、理解出来なかった。
「でも戦争に負け、なんでこうなったかを考えると、戦争は人として、しちゃいけなかった事と思うよ」
と、爺ちゃんは言った。
その時外では、蝉がうるさいほど、鳴いていたのだった。
つづく
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