第83話「天の川」

手を伸ばせば届きそうな、天の川を見たのは、いつの事だっただろうか?

僕の見上げた、東京の夜空では、一等星や二等星ばかりで星座がかろうじて、見えるくらいだ。今では、それすらもあやうい夜空になっている。


星座のむこうにも、星空がつづいているのを、本から知った。

図鑑では、天空限り無く、星の海の写真がのっていた。

塾にかよっていた4年生の頃、夏の勉強合宿と銘打って、避暑地の別荘に連れていってくれた。

確かに勉強もしたが、もっと自然の中へと、遊びが中心だった。

合宿の夜、塾長先生が……


「天の川を見に行こう!」


と、僕らに言った。

合宿先の別荘からも、夜に天の川が見られて、喜んでいたが、車で小一時間のところの山頂に、連れていってもらった。


「着いたよ!」


と、塾長先生がワゴンを止めた。

車を降りると、夜空一面の星空だった。

僕は……


「うわ~!」


と、歓声をあげた。

すると……


「ミズキ!もっと、すごいぞ!!」


と、言って塾長先生は、車のヘッドライトを消してくれた。


「・・・」


ドーン!!


と、音をたてて星が落ちてきたかと思うほどの、満点の星空だった。僕は声が出なかった。

あの図書館で見た、図鑑の星空が、目の前に広がっていた。


「あぁ~」


僕は、ため息のような声しかでなかった!

明かりなど何ひとつなく、漆黒の闇の中、一粒一粒の星が自分から光り輝いていた。 天の川は、光る帯のようだった。 そして……


『空に浮いてる!』


と、僕は思った!この広い宇宙に浮いていて、自分も宇宙の一部なのを感じた。 天の川は、今にもこぼれそうに水をたくわえ、流れていた。そして手をかざすと、本当に僕の指の間から、星がこぼれていった!


この時、僕は生まれて初めて、流れ星を見たのだった。


おしまい

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