第50話「傘の差し方」

雨が降っている。狭い往来で、ふと僕は傘をかしげた。すれ違う人は、傘を高く上げた。そうやって、互いに譲り合って、狭い道を通り合う。なんて事ない心遣いなのだが、そういえば傘をそうするように習ったのはいつの頃だろうか?僕は記憶を振りかっていくのだった。


◇◇◇


小学校1年生の時、持ち物の中に「黄色い傘」があった。交通安全用の黄色い傘だ。入学前には親父が、柄についてる名札に名前を書いてくれていた。小学校入りたては雨が降る日がなく、いつ使えるのか楽しみだった。


傘は保育園から使っていた。その時は、青い傘だった気がする。その時は、傘の使い方はならったかな?


ああ、思い出した!傘をクルクル回して水滴を飛ばして遊んで歩いていたら、婆ちゃんにダメだって注意されたなあ。多分、その後だから、やはり親父が傘に名前を書いてくれた時だろうか?


「ミズキ、狭い道では、向こうから人が来たら傘を横にずらすか、高くあげるんだよ」


と、親父が傘の使い方について教えてくれた。その事は爺ちゃんにも話した。


「お父さんが狭い道では、傘を横にしたり高くあげるんだって言ってたよ!」


と、僕が報告すると……


「おっ、ゆずり傘だね!」


と、爺ちゃんが教えてくれた。


「ゆずり傘って?」


「譲る傘って事で、傘がぶつかり合わないように、互いによけ合う事だよ。そちらからどうぞ!て感じに」


僕はそれを聞いて、なるほどそういうもんかあ!と傘の使い方について思ったのだった。

それからは街の中、傘を傾けたり、上げている人をみると、誰かに習ったんだなあ~と思って、なんか面白い気持ちになったのだった。


おしまい

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