第35話「砂山」
通勤電車の中から富士山が見えた。僕はふと小学時代を思い出すのだった。
◇◇◇
小学5年。山中湖林間学校から帰って来た僕らは、富士山を間近で見た感動から連日、学校の砂場で砂山を作っていた。その時作っていたメンバーは、カミとチョボオ、テラコとウッチーだった。放課後になると、男6人でせっせと砂山を作って行った。
「やっぱり、富士山は良いねえ~!」
と、カミ。
「早く白砂で、雪の所作ろうぜ!」
と、チョボオ。僕とカミは、一緒に砂山を固めていた。一度積んでは山頂を叩いて平らにした。そしてまた湿った砂を積みあげ叩くのであった。こうして作った砂山は、固く丈夫な砂山になった。
「僕らは、湖を作ろうぜ!」
ウッチーとテラコは、砂山の周りに穴を掘った。
「ところで、富士五湖って、湖がいくつだっけ?……4つ?6つ?」
と、テラコが言った。
「テラコ、6つな訳ないじゃん!5つだから富士五湖なんだろ~」
と、ウッチーが言った。
「あっ、そうかあ!そういえば富士五湖って、山中湖に河口湖に西湖あとなんだっけ?」
と、またテラコが言った。するとチョボオが……
「正直湖(しょうじきこ)だよ!」
と、言った。
「はあ!?」
「何行ってんだよ、それを言うなら精進湖(しょうじこ)だろ!」
と、みんなに突っ込まれていた。
「あれ?あと一つはなんだっけかなあ」
と、カミが言った。
「分かった分かった!今度こそ分かった!!」
と、チョボオが言った!
「狭山湖!」
「狭山湖は違うだろ!東京都だぞ!!」
と、良く釣りに行くウッチーとカミに突っ込まれていた。僕は、そんな会話を聞きながら、せっせと白砂を山頂からかけて雪景色を作っていた。
「富士五湖って行ったら……山中湖、河口湖、西湖、精進湖と、本栖湖だよ!」
と、ウッチーが言った。さすがは、自分から富士五湖を作ると言っただけはあるなあと、僕は思ったのだった。
「ねえ知ってる!?本栖湖と山中湖は地下がつながっていて、モッシーがいるんだぜ!」
と、急にチョボオが言った。
「バカ!本栖湖と西湖だろ?山中湖は、反対側だぜ!」
と、ウッチーは反論した。僕は気になったので、ランドセルから社会の地図帳を出して確認した。確かに、本栖湖と西湖は隣りで、山中湖はずっと向うだった。さすがはウッチー、富士五湖製作者だ!
「分かったよ、ウッチー!だけど、なんでモッシーなんだ?サッシーでもいいじゃん!」
と、チョボオはまた訳の分からん事を言っていた。そんなやりとりの間に、富士山は出来上がり、富士五湖もそろった!ちょっと離れて見てみるとナカナカの造形だった。気付くと下級生たちが、いつの間にかに集まって来た。
「すげー!」
「富士山だぜ」
なんていうつぶやきが聞こえ、気分が良かった!
「こら~、またお前らか!ちゃんと元通りにしておけよ~!!」
向こうから、用務のオジサンがやって来た。
「しまった!」
カミが、かたわらにおいたランドセルに手を伸ばす。
「みんな逃げろ~!」
えっ!?逃げんの?わっ、ウッチーやテラコまでランドセル持って!?ちょっと待ってくれ~。
僕らは、ランドセルを担いで、校庭の端の閉まっている門を乗り越え逃げ出したのだった。
後日……僕らは、担任の先生にコッテリしぼられた。理由は砂山を作った事ではなかった。むしろ砂山は褒められていた。下級生たちに良い影響を与え、図画工作の粘土細工では、見ていた子たちが持ってる粘土を全部使ったりと、ダイナミックな造形をしだしたからだ。
僕らが叱られた理由……それは逃げ出したからだった。先生に叱られ、そのあと用務員室に行った。
「逃げ出してゴメンなさい」
と、6人で用務のオジサンに謝った。
「良く謝りに来たね!砂場はみんなの知ってる通り、授業で使うから、どの道片付けなきゃ行けないし、片付けるなんて簡単だけどさあ。オジサンはね、オジサンがあの富士山を壊すのが嫌だったんだよ。良く出来ていたもんなあ。だから、みんなに片付けてもらいたかったんだよ」
と、用務のオジサンは言ったのだった。僕らは……
「そっかあ」
と、深く、その言葉の意味を考えたのだった。
おしまい
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