ゴッド・ライブ・プロテクション
@kottu
プロローグ
その日の天候は雨だったのを覚えている。
雨量自体はそれほどでもないが、それでも外にいれば、ずぶ濡れになるくらいには降っていた。
そんな雨の降る光景は少しばかり幻想的なものがあった。
一言で言うならそれは天気雨とでも言えばよいだろうか。
雨雲がカーテンレースの役割を果たすように太陽の日光を遮る。だが、雲自体が薄いせいで所々で光が漏れ、雨だというのに景色自体は明るいものだ。
降ってくる雨粒が日光を乱反射させ、白銀の世界にいくつもの虹が浮かぶのは何とも言えない絶景だった。
だが……、そんな光景とは裏腹に現実はもう一つの景色を生み出していた。
「おい、早く逃げるぞ! 奴が来ちまう!」
俺の隣で叫ぶ男。
そいつは額に汗を浮かべ、顔面蒼白になりながら俺の手を強く引く。
腰に携えたサバイバルナイフ、背中に背負った御大層な機関銃、上に着るジャケットに付いた数個の手榴弾。それら全ては無論本物だ。
だが、ミリタリー姿で重装備のくせにそいつは今逃げようなんて必死に喚いているのだ。
正直、見ていてなんのための武器なんだよ、なんて軽口を叩いてやりたいものだ。
しかし、俺はそうせずに引かれた手を振りほどいて、そいつよりも早く逃げだしていた。
そんな俺の行為に当然後ろからは――、
「――おいっ!? 俺を置いて行くなよ!」
と、言う声が聞こえてくる。
だが、そんなのに気を使っている暇などあるわけがないだろう。
なぜなら――、
「邪魔よ。邪魔なのよ! 私に触れるなっ! 殺せっ! 【
そう叫んだのが聞こえた瞬間、背筋に悪寒が走る。
俺は走りながらではあるが、その悪寒を確かめるために首だけを後ろに向ける。
そこに広がっていた光景は最早絶景ではなく、地獄絵図。言うなれば、『
洪水のような大量の水が身の丈ほどある大剣を軽々振り上げた一人の少女を中心に渦巻き、やがて竜巻のようになって天に昇る。
澄んだ綺麗な水が竜巻になるだけで見とれてしまうほどの神々しさを感じさせ、幻想的で、不思議で、美しい。
だが、それに見とれて足を止めれば、それは間違いになく死に繋がる。それが直感できた。
「死ね人間、【
少女はゆっくりと大剣を振りい降ろす。
刹那、竜巻が徐々にゆらゆらと揺れ、そこから斬撃でも飛ばすように水の刃が射出させる。
それは人間の身体など簡単に両断できてしまうほどの威力で、最早それは水の暴挙だ。
街に建つ家も斬撃の余波だけで吹き飛び、コンクリートで出来た壁や道すらも簡単に両断し、背後で人々の悲鳴と肉が引き裂ける生々しい音が鳴り響く。
「何なんだよ……。何なんだよ、あの化物はっ!?」
俺――アルコナ・リューゲンのそんな叫びも周りの悲鳴にかき消され、もう訳が分からないままに無我夢中になって逃げることしか出来なかった。
その圧倒的な力の前では俺なんていう人間はちっぽけな存在でしかないんだと思い知りながら……ただひたすらに。
ゴッド・ライブ・プロテクション @kottu
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