第6話 無用の長物の用

袖をまくった人肌色の右腕を天井にさらす。

血色……というのもおかしな話だが、掌をかざしたって光は透けない健康的な腕だ。


拳を握りこむ。


俺の肘から拳にかけてが人肌色から鈍い光沢を放つ鉛色に一瞬で代わり、思わず感嘆の声が漏れた。


「想像してたそのまんま。スゲェや」


薬運びの一件から向こう、地道な仕事で稼いだ産物がこの両腕だ。

『普段はノーマルアームと見分けがつきませんが、拳を握ると鋼鉄のように硬化します』の説明文と、鉛色の拳がコンクリートブロックを粉砕するイメージ画像に惹かれて注文した甲斐があった。


万能のサイコキネシスがあると言っても、強敵相手には普通にブン殴ったりするシチュエーションもあることを知った。

それがカスタマイズの主な理由だが、いくつかある戦闘用パーツの中でこいつを選んだのは単純に俺の中の少年ハートのメモリーを思い出させてくれたからだ。


「そのパーツ注文した奴、久し振りに見たよ」

カウンターの向こうから俺のホクホク顔を眺めていたおやっさんが言う。


「やっぱ流行りとかあんの?」

「最近は電磁フィストだな。スタンとバリアが両方使えて取り回しやすい。見た目も派手でハッタリが利く、んだそうだ」

おやっさんの口ぶりはすこぶる他人事で、たぶんそのパーツは彼の趣味とは合わないのだろうと思った。


「こっちも届いてるぞ」


続けてカウンターにスイと出た箱を開けると、二輪車のハンドルのような“柄”が入っている。


「光剣でも買ったのか?」

箱を覗き込むリラに、チッチッチと舌を打ち指を振る。


「ディス・イズ・クール。特殊警棒トクシュケイボー


柄を手に取り宙を切るように振り抜くと、隠されていた三段式格納のロッドがシャキーンと鋭い金属音を立て出現した。

リラの表情が固まる。


「……何に使うんだ?」


残酷なほどに純粋な疑問符を浮かべ、彼女が問うてくる。


「そんな事言う人、嫌いです」


見も蓋もない質問に、古代の言語で返答する他なかった。

この未来じだいにもまだこんなモンがあることに感動したんだよ。


徐々に冷え込んできた場の空気を、おやっさんのぶっきらぼうな声が打開してくれる。


「警棒の出番があるかは分からんが、ちょうどいい依頼しごとが来てるぞ。賭場カジノの用心棒だ」



「ツモ。チートイツタンヤオリーチ一発巫女みこナース」


やや背を丸めてボソリと呟き、手配を向こう側へ倒す。

山へ手を伸ばし、二段に積み上げられた牌を摘み上げる。


「ドラだ」


裏返してみせた牌には、青く耳のない猫型ロボットの笑顔。


俺以外の面子は短くため息をつき、牌をかき混ぜにかかった。


(ほどほどにしておけよ)


後ろを通りがかったリラが、プライベート通信で耳打ちしてくる。


(クライアントに勝てと言われりゃ勝つし、負けろって言われりゃその通りにしてるだけだよ)


台からは目を離さずに返事を返す。


おやっさんの紹介してくれた用心棒の仕事は、思っていたのと違った。

賭場の奥に控えていて不届き者がやってきたら「先生、お願いします」なんて言われるアレではなく、要するに『代打ち』だったのだ。


そんな訳で、10余りの卓が並ぶフロアの一角で常連の中年紳士どもと賭博ゲームに興じているのは遊びでなくビジネス。


俺は雀聖でもアイドル雀士でもない普通の超能力者なので、賭場をコントロールするには透視やテレポートを活用するのは当然だろう。


「おうネーチャン。両替え頼まあ」

おいもだ」

「ワシも」


背後のリラに、面子のオッサンたちが口々に万点棒を差し出す。

代打ちで入った俺とは別に、リラは賭場のホールスタッフとしての依頼を受けている。


なお、彼らの手元には端数を揃えるだけの点棒は充分にある。

それでも両替を頼む理由は一つ。


今のリラは、赤いサテン地まぶしいハイレグから網タイツの脚線美が伸び、大きく開いた胸元の谷間に両替用の点棒を挟むバニーガール姿をしているのだ。

ここの制服だから仕方なく、という体だが実際のところ彼女はノリノリで着こなしていた。


「かしこまりましたぁ」


あからさまに鼻の下を伸ばすオッサン連中の視線を営業スマイルでスルーしながら、胸元から点棒を取り出し男たちに渡していくリラ。

受け取った万点棒は自分の谷間に差し込む。なんでも、店主からそうするように指導されたらしい。

その指導、イエスだね。


「俺の点棒ぼうも挟んでくれないか」

「……はぁ?」


続いて万点棒を差し出した俺に、リラは営業スマイルを崩さず首を傾げる。

そのまま俺の要求を無視しすれ違うその時、彼女のピンヒールの踵が俺のつま先に食い込んだ。


激痛に呻く俺を一瞥して過ぎ去る白い丸尻尾。


オッサンたちが笑う中、俺はリラに抗議することはない。


これはこれでイエスだったからだ。

ここだけの話、俺のチャクラは若干エクステンションしていた。



(ところでリラ、あれはどう思う?)


通信機能でなくテレパシーで語りかける。


傍受の可能性をなくそうという俺の意図を察し、リラも電脳の中で答える。


(こちらの様子を窺っている、のだろうな。思うに“身をやつして”)

(……やつせてねえな)

(そうだな)


俺とリラは離れた場所で各々の仕事をこなしつつ、同じ方向――ホールの片隅に視線をやる。


まぶかに被ったハンチング、合皮のジャンパーにスラックス。

そんな装いの男が壁にもたれかかっているが、ハンチングの下に覗く口元は見覚えあるメタリックだった。


あそこに居るのはヒート・B・プレッシャー。

先日そう名乗って襲い掛かってきた“危険なロボット”だ。


(私が様子を見て来よう)


念話で言い残し、リラがホールの片隅へカツカツと歩いていく。


「何か御用はございませんか?」

様子を見ると言いながら、大胆にも直接接触するリラ。

流石の機械野郎も面食らったのか、両肩を跳ね上げるように身じろぎした。


「い、いえ……」

「……御用がありましたら何なりとおっしゃって下さいね?」

「あ、あ、の、ええと、お構いなく……!」


完璧な営業スマイルで腰を折るリラに対し、奴は全身を動揺させて顔を背けている。


これ、正体がバレたことに動揺してるんじゃないと思う。何となく。

見ていて楽しいタイプのテンパり方だ。


「ロン。チンイツピンフニンニクヤサイマシマシアブラカラメ」


「……へ?」

「跳満だ。あんちゃん、ウサギに気ぃ取られ過ぎだね」


二兎を追うものは一兎をも得ずとはよく言ったもの。

リラの活躍に気を取られ、別の意味でテンパっていた対面のオッサンに振り込んでしまっていた。



思わぬ失態から点棒の支払いが嵩み、アイキャンフライ目前となった時、賭場のホールにたった一つしかない扉が殊更に大きな音を立て開け放たれた。


「全員動くな!」


スーツの胸周りにプロテクターを装着しトレンチコートを羽織った中年男の怒鳴り声に、賭場の喧騒は一気に静まる。


「“ESP反応”は間違いなく此処から出てまスね」

両脇を固める似たような出で立ちの若い男のうち一人が、手に持った辞書サイズの機械に目をやり中年男に報告。


中年はフンと鼻を鳴らしホール全体を見渡した。


「ちょ、ちょっと!何だい、アンタ方は!?」

血相を変えた店主が中年男に詰め寄る。


「この店には、とある嫌疑がかけられた。これより強制捜査に入る」

「な……ウチは毎月キチンと手続きリベートしてるじゃないか!強制捜査なんて……」


ダァン、と轟音がひとつ響く。


眉間に風穴を開けられた店主が、その場に膝から崩れ落ちた。


「俺達ゃ公安だ。捜査を妨害する者は即刻排除しろと言われている」


公安を名乗った中年男が手に持った黒光りする大型拳銃が、銃口から白い煙を上げている。


光線銃の実用化された未来世界でも、火薬で実弾を打ち出す武器は現役だ。

長年培った信頼性の高さはもとより炸裂音と物理的な衝撃が持つも重視されている(リラ情報)。


突然の発砲に混乱した数人の男達が席を立ち、ホールの奥へ逃れようとする。


後ろに控えた男二人が手にした銃が鉛玉を連射し、断りなく動いた者達を例外なく射殺。


横薙ぎの射線は本来の標的以外にも理不尽に降り注ぎ、ある者は脳天を撃ち抜かれ即死、ある者は肩口や太腿を抉られ悶絶した。


流れ弾は俺の方へも飛んで来たが、サイコキネシスで弾道を逸らし事なきを得る。


と、若い男が持った機械から電子音。


「課長。また反応です」

「どっちだ」

「今度は“PSY”の方ッスね……コレ、の反応なんでスかね?」

「知るか。余計なことを考えるな。そういうクセをつけとけといつも言ってるだろうが」


さっきはあの機械見てESPとか言ってたな。で、今度はPSY。


(リラ、もしかしてこいつら『刺客』か?)

(その可能性は高いな。だが、あの様子だと正確な目的を知らされていない『手駒』に過ぎないようだ)


再び男の機械から電子音。


「あ!“ESP”も反応しやした!」

「間違いないな。ここに居る連中……まだ生きている連中を一人ずつ調べて回るぞ」


動き出した公安の男達を見やりながら、俺はリラとのテレパシー会話を咄嗟に打ち切った。


あの機械は、きっと俺の超能力に反応している。

連中の口ぶりからすると、アレが超能力者を見つけ出す機械だとは解っていないようだが、迂闊に超能力を使えばただでは済まないだろう。


――――俺も、俺の周りに居る無関係な連中も。


中年男『課長』を真ん中にした三人組は、ホールで青ざめる客たち一人ひとりに件の機械をかざして回りはじめた。


あの機械が俺にかざされた時、どうなるのだろう。

超能力を発動した時だけ反応するのか?それとも、超能力者に直接かざせば検出するようなシロモノなのか?

バレたとして、連中にこの俺をどうにかする術はあるのか?ないのか?


決め手になる情報が少なすぎる。今動くのは博打過ぎる。


「そこの女!次はお前だ」

課長が指差したのはリラだ。


「フン、お前は別の取り締まりが必要かもしれんなァ?」

ピンヒールのつま先から頭頂で揺れるウサ耳までを舐めるように見る中年男。


「課長、まずはボディチェックじゃないスか?」


背後に控えた男が、鼻息を荒くして上司に“進言”する。

公安の中年男は、仏頂面を崩さないまま鼻をならした。


「そうだな。俺がやっておくからお前たちは“捜査”を続けろ」


いやらしく歪む口元から発せられた命令に、二人の部下はため息と舌打ち交じりに“超能力探し”を再開。


「貴様は特別捜査だ。両手を壁につけて尻をこちらへ向けろ。公安に“隠し事”はできんということを教えてやる」


相手は口ごたえしただけの人間を造作もなく射殺するような連中だ。

今からリラにしようとしている事も、想像通りのロクでもない事に違いない。


彼女もそれを察しているようで、無表情を装いながらもメガネの奥の眼元は緊張で固まっていた。


そして、超能力探しの順番は着々と俺に迫ってきている。


手番が迫る。切るべき札は、どれだ?


一応懐に忍ばせておいた特殊警棒の柄に手をやろうとした時、恐怖に凍りついた賭場の静寂を打ち破る者が現れた。


「待てぇい!」



「正義センサーに感あり。お前たちから悪を検出した!!」


ホールの片隅で声を上げたその男に対し、『課長』は手を静かに挙げ部下に合図。

二人の部下は躊躇うことなく携えた銃のトリガーを引き、男に実弾を浴びせる。


無数の弾丸が降り注ぎ、硝煙がホールに立ち込める。


換気装置の働きにより視界が晴れると、倒れも傷つきもせず仁王立ちを続ける男の姿があった。


男が銃弾でズタボロになったジャンパーとハンチングを脱ぎ捨てる。

前開きのシャツは襟元のボタンだけ外して頭から脱ぐ。

ベルトとチャックを下ろしズボンを脱ぐ。

最後に、純白のブリーフを乱暴に引きちぎる。


「権力を不当に振りかざす悪党ども!このヒート・B・プレッシャーが相手だ!」


薄暗いホールの照明にメタルの体がぎらりと輝く。


ヒートが戦闘態勢に入るタイムは5秒に過ぎないが、妙に長く感じた。

プロセスをもう一回見る必要は特にない。


紙ふぶきのように舞うブリーフの布クズを背に、武装した男二人に歩み寄るヒート。


再び銃撃を浴びるが、彼の装甲はそれらを全て跳ね返す。

ブリーフ端切れと力を失った金属弾頭がメタル戦士の後ろに道を作る。


唖然とする二人の部下は手にした銃が弾切れを起こしているのにも気付かずトリガーに指をかけている。

いつの間にかヒートは彼らの目の前にまで接近を果たし、男達の銃を素手で握り潰した。


「ひ……!」

「せ、戦闘用サイボーグか!?」


怯む男達の言葉に、ヒートの両目が発光。

野郎、タブー中のタブーに触れやがった。


「ボクを人間扱いするな!」


戦闘ロボット・ヒートが鉄腕を振るう。


左の男は鳩尾に一撃をもらい、部屋の端から端まで勢いよく吹き飛んで壁に叩き付けられた。

右の男は側頭部に裏拳が直撃。

体が旋盤にでもセットされたのかってくらいのキリモミ回転の後、足元に沈んだ。


「貴様、公安に手を上げて無事で済むと思うなよ!」


関節から蒸気を立ち上らせるヒートに大口径の銃口が向けられる。


ヒートは課長の言葉に全く臆した様子もなく向き直ると、ボソボソとなにやら呟く。


「目標の傍に女性……跳弾による副次的被害の可能性あり」


鋼鉄の足が床を蹴り、駆ける。

猛然と迫るヒートに対し、公安の中年男も真正面から大型拳銃を連射。


放たれた銃弾が吸い込まれるようにヒートの装甲に着弾していく。

中年男の射撃技能が優れているということじゃない。

まったく見当違いの方向へ飛んでいた弾丸まで、本当に彼の装甲に吸い寄せられ張り付いていた。


「こんな危険なものは没収だ」


あっという間に距離をつめたヒートの掌に、大型拳銃が持ち主の腕ごと吸い寄せられる。


「電磁関節の磁力を応用しているのか?」


間近でその様を見ていたリラが、自分と公安課長との間に立ったヒートの背中に言った。


「ご明察です」


背を向けたまま答え、驚愕と恐怖に目を剥く中年男の両腕を改めて拘束。

体幹を微動だにせず両腕を真上に振るう。


ただそれだけで、そこそこ恰幅のいい中年男の体はシャンパンのコルク栓さながら真上へ飛び、全体が薄暗く光る天井に頭から腰まで突き刺さった。



「大丈夫ですか」


公安の手先三人を一瞬でぶちのめしたヒートは、身体に張り付いた銃弾を払い落としながら真っ先にリラの安否を確認した。


「すまない、助かったよ」

「っ……い、いえ、当然の事を、したまででです」


微笑んで礼を言うリラに対し、さっきまでのメカニカルな立ち回りからは考えられない動揺した様子のヒート。

すぐにリラの所まで駆け寄るべきかと思ったが、少々観察を続けさせてもらおう。


「そういえば先日、私は名乗っていなかったな。リラと呼んでくれていい。ヒート・B・プレッシャー……ヒートでいいね?」

「は、は、は、はい!光栄です!」


ヒートの体躯はそれなりに長身のリラが見上げなければいけないほど、デカい。

当然、二人が会話をするんだからヒートは彼女を見下ろすことになるんだが、彼の視線はどこか一点に定まっていない。


そして、気がついた。から明らかに目ぇそらしてるぜこいつ。


「それにしても、奴らはなぜこんな惨い真似を……」


我に返ったようにヒートが辺りを見回した。


生き残った連中は公安がぶちのめされたところで一目散に逃げ出し、ホールに残っているのは死んだ奴だけ。

壁や天井には弾痕。半壊した卓やイスもあちこちに散乱している。


「俺のせいかもな」


空気が若干真面目な感じになったので、倒れた卓の裏で身を隠すのをやめ立ち上がった。


前回やりあった記憶も鮮明な俺に対し身構えるヒート。


「よせ。相棒が世話になった手前、争う気はねえよ」

「……ボクのセンサーも今のお前には反応しない」


両腕をだらりと下ろしたままの俺を見て、ヒートもすぐに構えを解き直立の姿勢になおる。


「お前のせい、とは?」

「言ったろ。俺は超能力者だ」


その辺に転がっていた牌を数個、サイコキネシスで顔の高さまで浮かべてみせる。


だが、ひとりでに漏れた諦観混じりのため息と共に、牌はすぐに力なく床に落ちた。


「……どうにも、この世界は便利すぎて目立たないがな」


重力を操れば手を触れずに物を浮かべることができる。

電脳をネットワークに繋げば、頭の中で離れた相手と会話ができる。


俺が超能力でやれる事は、この未来世界では誰にだってできる事。

目の前で念力使って見せたって、何の証明にもならないんだよな。


「ヒート。キミももしかしてタクスと似たようななんじゃないか?」


リラが歩み出てヒートに問う。


彼女は、俺の中に不意に生まれた諦めを承知しているのだ。

俺もリラも、テレパシーなんか使っちゃいない。


「ボクは人類機械化計画の直前に完成した究極の人型ロボット。感情を持ち、人間のようにふるまうことのできる唯一のロボットだ」


感情を持つロボット。それは本当のことなんだろう。

ヒートは俺の微妙な表情を見ていたし、そこからリラの問いかけの意味をも察したらしかった。


「ボクが生まれてすぐ、人間達も機械の体を持った。機械の体を持つボクは『ロボット』でなく『動作体』と呼ばれるようになった」

「アイデンティティの危機、か。だからサイボーグと呼ばれることをあんなに嫌がっているんだね」


両目を消灯して頷くヒートの巨体は、見た目よりも小さく見えた。

だいたい、俺と同じくらいの大きさに見えた。


「わかる」


他とは違うのに目立たない。認められない。信じてもらえない。

こいつの苦悩、苛立ち、鬱憤……マジわかる。


「俺にはわかるよ、ヒート・B・プレッシャー……究極のロボット!」


手を差し出す。


「サイブリッド・タクス……超能力サイボーグ!」


「いつか世の中に認めさせてやろうぜ。俺達此処に在り!ってよ」


男同士交わした握手。

金属同士が触れ合っているのに、掌が熱かった。



「だがタクス。目立ちたいのはいいが、今日みたいに刺客に襲われるリスクは付きまとうぞ?」


だろうな。俺の結論は、こうだ。


「コソコソ隠れて生き延びるなんてゴメンだね。どうせやり合うなら追う側にまわってやる」


胸を張って宣言する。相棒は異を唱える様子がない。

リラもまた女じゃないだけあってか、既にハラを決めたようだ。


「……そうだな、それが良いと思う。今日の公安連中、事情を知らないまま超能力者探しに使われていた。向こうも表立って動けない事情があるんだ」


リラは状況を分析しながらメガネのブリッジを中指で押し上げる。

すごく頭よさそうに見えるぞ。


「むしろ、私たちの方が有利だ。何も隠し立てする必要がなく、好き放題やれるんだからな」


を追うのなら、ボクにも協力させてくれないか」

「いいのか、ヒート。お前は元々無関係なんだぜ?」

「ボクはもう、タクスとリラさんの味方だ。仲間に迫る危機には共に立ち向かう――それもボクの原則なんだ」


俺達が手を組むなら、俺達の望む生き方はきっとできる。

目の前の鋼鉄メタル身体ボディには、そう確信させるものがあった。


「頼もしいな、よろしく」

「え、えええ、ええ!こちらこそ!!」


右手を差し出すリラに、ただでさえ硬いメタルボディをガッチガチにするヒート。


「なあヒート。言っちゃナンだけどよ、そんなんじゃ足元すくわれるぜ」


二人とも俺の言葉の意味が判らなかったようで、何も言わずこっちを見てくる。


まだ解る可能性が高そうなリラにアイコンタクトをとりながら、もう一言付け加えてやる。


が無さ過ぎだ、って言ってんの」


一拍置いてようやく感付いたらしく、リラは苦笑。

口元がニヤついているところを見ると、何やら良からぬ事を思いついたようだ。


「そうだな、追々慣れていった方が良いだろう。まあ、仲良く――しようなっ!」


そう言って、リラはちょっとジャンプ。

隙だらけなカタブツロボットの首に手を回し、大胆に抱きついた。


硬い胸板に彼女の柔らかい部分が押し付けられ、つぶれるように形を変えるのが見える。


「あ、あのっ、リ、リ、リ、リラさん!?あ、あ、あっあああ!!」

「……かい?」


リラが上目遣いにいたずらっぽく微笑む。


ヒートの両目に光がほとばしり、関節からはもうもうと蒸気が噴出していた。

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