第2話 美少女がとても冷たいです
明らかに、強い。
素人目でも、いや誰が見てもそう思うだろう。
鋼の刃はまるで少女の右手の如く自由に獲物を切り裂き、彼女は踊るかのように血なまぐさい戦場を舞った
どれも人間離れした反射神経で繰り出される技、回避、斬撃。
はたから見れば一方的な虐殺に見えるだろうが、そこに畏怖するものはなく、ただ見るものを美しいと言わせるだけの技量があった。
「すげえ」
呆気にとられた俺はただ見ることしかできない―――というか、変に手を出したらこちらまでお構いなく切り捨てられそうだったので、おとなしくゴブリン(仮称)が葬られるのを待つ。
「ゴフッツ!」
とうとう最後のゴブリンが倒れる。
お前らはよくやったと俺は思うぞ。たかが親父狩りをするような連中が剣道の師範レベルに勝てるわけないというか、とにかくこのゴブリンたちは奮闘していたと思う(俺は何もしていないが)。
「大丈夫?」
と、息一つ上がってない金髪碧眼少女が、剣を収めて言った。
「ん?」
後ろを振り返る。しかし誰もいない。
「違う、君」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
俺は感謝の気持ちをこめ、右手を伸ばす。
「そう、ならよかった」
それを無視して少女は反転。すたこらさっさと歩みを進め始める。
「……誰か俺の右手を温かい毛布で包んであげてください」
行き場を失った右手を引込め、先行く少女の後を追う。
ぐひひ、かわいいからストーカーしてやろう。
とか、思ってないからね! 単に道聞くだけだから!!
「あの」
肩に手を置く前にひらりと交わされる。もしかして後ろに眼があるかね。
「ストーカー?」
「ちゃうねん」
訝しげに藍色の瞳が細められる。
表情もなんだかとっても不機嫌そうに見えるのは俺だけだろうか。
「何か用ですか」
見るからに不審者っぽい奴に話しかけられたかのような、そんな不機嫌さを声色に乗せ、俺のHPはゴリゴリと減っていく。
「道を聞きたいだけなんだけどさ」
軽くニヒルな笑いを浮かべて問う。
そう言うと、彼女も俺の笑みに釣られてか、めちゃくちゃ可愛らしい笑顔を浮かべ。
「そこの森にある獣道をまっすぐ行けば崖がありますので死んでください」
「取りつく島もないのか……」
「失礼いたします」
なんか悪いことでもしましたか……?
「いやいやいやっ! マジで!! というか、ここはいったいどこの何県なんですかね!? せめてヒントだけでも!」
お、この質問は的を射たようだ。ピタリと彼女の歩みが止まった。
「……わからない」
「せめて貴女の名前だけでも。あ、ちなみに俺の名前は吉広≪よしひろ≫。吉がいっぱい広がりますように的な意味で母親がつけたんだけどさ……」
スタスタスタ
「……」←何事もなかったかのように歩き出す。
ちくしょう。
それっきり彼女は俺の質問に答えることなかった。
俺はただ一人、見知らぬ森で独りぼっち。このままじゃ高い確率で死ぬ。
いや、別に死ぬのはいいんだよ?
けれどもなんかさ……自分悔しいっす。男の子ならわかるよね?
「……仕方ない」
なんかもう我慢の限界にきた俺は最後の手段を使うことにした。
「もう知らないっ! 勝手についていくもんね!!」
ストーカーとは、こそこそと物陰に隠れて付いていくから気持ち悪いわけで……
堂々とストーカー宣言すれば多少はマシじゃね?
という謎の理論と主に本能に従って。
ストーカーって言われても、もう気にしないんだから!!
☆
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