これって、なんてVRゲームなんですか?

@kururusougun52

第1話 ニューゲームスタートです

足がある。

手もある。


おそらく体はなんともない。


この調子ならバク宙すらもできるかもしれない……


「とぅっ!」


シュタッ!!


ふんっ、他愛もない。

どうやら俺の体はなんともないらしい。

人間ってのはそう簡単に死なないようだ。


「――――いや、俺は死んだよな確か」


指を顎に当て、考える。


回想


死を覚悟はつい先ほどの話だ。


会社のパワハラ上司をぶん殴り、全治一か月の怪我を負わせた俺は当然即クビ&慰謝料を払わされ、これからの人生を考えつつ、ふらふらとハローワークへ行く途中の横断歩道でうたた寝しながら信号を待っていたら、どこからともなく暴走トラックが俺のとこに突っ込んできて……。


「あ、死んだわ」


心のどこかで「やっと死ねるかー」と、―――喜びに浸っていた、次の瞬間。


特に痛みもなく視界が暗転。


眼が覚めると


「バ○スぅ!」


「メガァっ! メガァっ!」


太陽がさんさんと俺の目を刺す。

小粋な青年に崩壊の呪文を言われたぐらいに眩しかった。


回想終わり。


俺は辺りを見渡す。


「森だな」


おそらく……というか、見るまんまに俺の眼前に広がっているのは生い茂る緑の森だ。


「ギャアッ! ギャアッ!」


スィーと上空を横切る飛行機のような、翼の生えたトカゲ。


「ゴブッ、ゴブブ!」


棍棒を振り回す緑色で、二足歩行の生物。


「んー」


あーなんかよく見ると骸骨落ちてるわ。

明らかに成人男性っぽいの。


この頃、かなり疲れてはいたが、至って今の俺は正常だと思う。思いたい。


「……夢であってくれ」


最近、というか上司を殴るまでのここ数か月。サービス(笑)残業だったからなー。


幻覚を見ても可笑しくないし、某ゲームだと事故の後遺症で世界が肉片に見えたりするもんなー。俺もトラックと正面衝突した後遺症で世界がファンタジー化してもまこと不思議ではない。


「さて、家に帰ろう」←思いっきり混乱中。


とりあえず太陽から方角を割出し、適当に足を進める。

「すべての道はローマに通じている」ともいうぐらいだから、いつかどこかに付くだろうと信じて。


しばらく進むと、ものすごい尿意に気が付き、用を足すため寄り道。


「ゴブッ♡! ゴブッ♡! ゴブッ―――!」


ずっこんばっこん。


「ゴブッッツゴブツッツ!」


シャオアアアアアアー


「……?」


シャオアアアアアアー


「ゴブッごb!!!?」


ショアアアアアー


「ゴブッ!!!!!」


「ん!?」


なんか、すげえやばいことをしてしまったようだ。


例えると立ションしようとしたら、ちょうどそこの物陰にカップルが淫らな営みをしていて、俺の排水がまさかヒットしてしまったみたいな。


わかりやすく言うと、そこに水(黄金水)を差してしまいましたと。


「ゴボブブブブッ!(ぶっ殺す)」


びしょ濡れになったゴブリン(仮称)が棍棒を振り回し、ただならぬ殺気を向け俺を追いかけてくる。怖い……というより全力で汚いっ。


「そら怒りますよねえええ!!」


企業戦士の足取りはまるで訓練された軍隊のよう、速い。現代の荒波から逃れるため身に着けたスキルといえよう。


さらに足を速める。


相手もさらにちょこまかと、足を速める。


体力には自信があるほうだった。

無駄に数年前まで特殊な武術を半ば強制にやらされていたからな。


調子に乗って駆けっこをしているうちに、他のゴブリンが「お、なんかやってんな?」という感じで一体、二体と増えていき、やがては一対複数の鬼ごっこ(俺以外は全員鬼)と化した。


これもう収集付かねえや――――と思った矢先にだ。


「ごっが!?」


顔面からズシャー。


いったい誰だよ……こんなところに石ころ置いたやつ。

転んじまったじゃねえか。


「あ……」


「ゴブッツ!]


ゴブリン(仮称)の言葉はまったくわからないが、「ようやく追いついたぜ死ね」という顔をしているのはよく分かる。意思疎通はできなくても、俺でもあんなことされたら、そんな顔になると思うもん。


さてどうするか。状況は芳しくない。

例えるなら親父狩りで若者(しかも武器持ち)に囲まれているようなものだ。


奪われるものは金ではなく、明らかに命。


とっさに考えた状況を打開する方法は二つある。

俺が以前、というか物心付いたころから習っていた柳葉流武術にはこの二つしかない。


1、逃げる。

逃げることは恥ではない。無益な争いは避けよ。


2、無理なら殺せ。

ただし相手から攻撃され、なおかつ自分の生命が危うい場合のみ。徹底的にぶっ殺せ。


今まで良い意味で役に立ったことはないし、それにもう……。


「あー……なんか、めんどくせえ」


そういえば、もう一つ選択肢があったな。

これは亜流というか、俺の作り出した技で何度も使ったことのあるやつだ。


「柳葉流武術」


左の拳を軽く引き、右の拳を突き出す。

右足を前にだし、左足を引く。ここまでは普通の喧嘩や武術と変わらない。


ただならぬ雰囲気を感じたのかゴブリンが後ずさる。

俺はそれを見て、思わず吹き出しそうになるのを堪えつつ


「その3……すべてを諦めるっ!!」


※このポーズに特に意味はありません。


「ゴブっ!?」


あー、また死ぬのかな……。

今度はたぶん痛いだろうな。死ぬまで俺を殴り続けるだろう。


もうどうにでもなーれだ。

大の字で寝転がり、瞼を閉じる。


「ゴブッ…ゴブ…?」


※ゴブリンは罠だと思い警戒している!


「道を外した人間の末路なんてこんなものさ」


20年、割と長いようで短かったなー。

と、いつまでも流れない走馬灯を待っていると


「助けが、必要か」


ふわっと芳る、柑橘系のすっきりした香り。

匂いにつられて重い瞼を開くと、そこには―――


見たことのない金髪碧眼の美少女がいた。






























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