少女は、親に怒られる

 星空の下を歩いて帰る。空には星が瞬いている。地平線がない犬皇界けんおうかいとは違う。あたしにとって当たり前だと思っている事が、当たり前じゃない世界もあるんだな。

 初めての異世界は刺激が強かった。これと言って勇者らしいことは一切してないけれど……。


 仁君に言われたように初めての世界で無意識ながら疲れたのだろう。体が少し重かった。

 明日の事を考えると、さっさとお風呂に入って寝た方が良いかな。

 そんな事を思いながら玄関を開けて家に入ったのだが、リビングから出てきた母親に捕まってしまった。



「どこ行ってたの?」



「バイト」と正直に答えてしまったのが失敗だった。



「何? あんたバイトなんか始めたの? 受験生でしょ?」



 母親の表情が変わった。あ、面倒なことになった、と思いながらもあたしの口からは既に反抗的な言葉が吐き出されていた。



「別にいいでしょ。推薦狙いで受験勉強なんてないんだから」



「そんなこと言ったって、夏休みの宿題は終わったの?」



 うぐぐ。さすが、あたしの母親だ。痛いところをついてくる。



「ちゃんとやるよ!」



 ちゃんとやっているよ、という嘘は咄嗟には出なかった。
素直な私。正直者はバカを見るってやつね。


「しっかりしないと、推薦だってダメになるかもしれないわよ!」



 言われなくたって知ってるよ、そんくらい。



「わかってるよ!」



 言い捨てて自分の部屋に駆け込む。



 ……最悪。この世界の外にも色んな世界が広がっているって知った記念の日なのに。


 結局、家に帰れば口うるさい母親に現実を見るように言われてしまう。異世界があろうが無かろうが、あたしは尻を叩かれてゴールの見えないマラソンを走らされるのだ。

 
しっかり勉強して、大学に行って、それなりに就活して、それなりの企業に入って、どっかで出会ったそれなりの男性と結婚して、それなりに幸せになる。


 それが本当の幸せなのかな。あたしにはわかんない。やりたいことなんてない。


 高揚が冷めたあたしはシャワーを浴びて、晩御飯を食べた。晩御飯はとんかつだったけど、喧嘩したまま食べるとんかつは味気なく感じた。


 食後にテレビも見ないで、あたしは、ふて寝のように眠りについた。





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