上条玲の手紙
今私は海にいるよ。あの日樹と一緒に座ったベンチで、あの日と同じ景色を見ているよ。今日も天気がよくてとても気持ちいい。だから、つい思い出しちゃったんだ。
もう三年生だよ。本当にあっという間だよね。すぐに大人になっちゃう。いつかみんなばらばらになるのかな。それは仕方ないけど、忘れないで欲しい。あなたには私がいて、私にはあなたがいた。それと同じようにみんながいた。
だから、もう苦しまないで。自分を好きになってあげて。樹は十分苦しんだ、たくさん悩んだ、自分を責めた。だから、もういいの。樹こそ笑ってほしい。笑うと目がくしゃってなる、子供みたいな顔が好きなんだ。
また、みんなで集まりたいね。樹はすぐ引っ越しちゃったから、まだまだ思い出作りたかったな。
そうそう、中間試験がやっと終わったんだ。航は相変わらず余裕みたい。樹が引っ越してからも、航はずっとクラストップを獲り続けてる。
そっちの海はどう?ここで見た海とはまったく違う表情なのかな。都会の喧騒がない分、波の音がより一層力強く聴こえそうだね。樹の心が、ちゃんと静かに癒されていればいいな。
私も自分があまり好きではないよ。つい人と比べてしまうところや、変にプライドが高いところとか。強がる子なんて可愛げがないよね。わかってはいるんだけど、なかなか性格ってすぐには変えられない。
見た目も中身も全然成長出来ていない。もう大人になるんだし、いい加減強くならないといけないよね。
でも、私の中ではあのときのまま時間が止まっています。それは樹も同じだと思う。
そして、私はあなたに謝らなければならないことがあります。だから、手紙ではなく直接会いに行こうと思います。
夏休みに入ったら、そちらへ向かいます。
五月十九日
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