拝啓 残暑の候、僕は君たちを待っています

上羽理瀬

逢坂樹からの手紙

 久しぶりだね、元気にしていたかな。


 もう三月だというのに、こっちはまだまだ寒い。たまに雪だって降るよ。

 はやく暖かくならないかな。桜が咲くのが待ち遠しい。


 ずっと返事を出さないでごめん。君から手紙をもらって、本当はすぐに返事を出そうと思っていたんだ。

 だけど、いざ書き始めると手が止まってしまって。


 ついね、考えてしまうんだ。僕という人間のこと。君ももちろん知っているだろう。

 僕は自分が好きではない。理由はいくつかあるけれど、その中でも一番の理由は、君を助けられなかったことだ。

 それがいまの僕にとっての最大の後悔となっている。


 雨が降ってきた。そういえば、あの日も雨だった。傘も差さずに、君はずぶ濡れで走っていたね。

 あのとき、僕の傘を差し伸べることができたら、君を抱きしめることができたら。今でもそう思うよ。

 だからね、こんな天気の日には心が少し弱くなる。なにをしていても集中できなくて、なにを考えているのかすら自分でもわかっていない。


 そんなときは、海を眺めに行くんだ。君も海が好きだったよね。あの波音をただ聴いているだけで、だんだんと落ち着いてくるんだ。

 僕の一番好きな時間帯は、やっぱり夕方の黄昏時。これは、君が教えてくれたんだったね。あのときのあの景色は、本当に素晴らしいものだった。知らないうちに涙が出ていた。

 あんなに綺麗なものを教えてくれてありがとう。そういえば、まだお礼を言っていなかったね。


 今日もこの手紙を書いたら、海を眺めに行こうと思う。雨が降っていてももちろん行くよ。雨音にかき消されながらも、波音って心に響くんだ。いつもとはまた違った表情を見せてくれる。

 難点は、あまりも寒すぎるところ。長い時間そこにいたら、確実に風邪をひいてしまうだろうね。


 ごめん、なんか僕のことばかり書いてしまった。

 君はいまどうしてる?変わりはないかな。もう、僕のことなんて忘れてしまったかな。

 少し悲しいけれど、忘れてしまっていても構わない。それでも、君がいま笑顔でいられているのなら、僕にとってこれ以上の幸せはない。


 どうかお元気で。どうか、もう二度とあんな思いはしませんように。


 心から祈っています。


 三月十日 逢坂樹おうさかいつき

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