これが俺の生きる道
「もしかしたら茉都香の行方を知ってるかも知れない人を捜してるんだねど、ここで絵を描いてる人や、美術部に所属している人とか、美大を目指してる人なんていないかしら?」
「そうだなぁ・・・マンガの上手い奴は一人知ってるけど。」
泉くんはちょっと間を空けてから教えてくれた。
「彼女、マンガは読まない子だったから、多分違うと思う。」
茉都香が藤子不二雄みたいに彼氏とふたりでマンガを描いている姿は想像出来ない。
「写真部も違うよね?」
「そうね。どうもふたりで一緒に絵を描いてるらしいの。」
透の聴いたという話しが本当であれぼだけれど。
「そうか。イラストレーターでもダメかな?」
“惜しい、近いんだけどなぁ。”
でも、なんか違う気がする。
「どうかなぁ。茉都香はバリバリ油絵描く人間だったし、今からイラストレーターとかやるかなぁ?」
「そうだよね。クラシック弾いてる人間が、突然、ヘビーメタル演奏する様なものだもんね。」
「それはアリでしょ?」
「え?アリなの?」
「アリでしょ。ギタリストなんかでクラシック出身者はたまに聴くもの。」
「ふうん、そうなんだ。意外だね。」
「クラシックは音楽の基本となるものでしょ。そのちょっとお高くお堅い世界を逸脱してみたい、ぶっ壊してやりたいっていう破壊的な衝動がヘビーメタルに向かえば、巧く作用するんだと思うの。」
洋楽かぶれなわたしの音楽ウンチク話が炸裂する。
「へぇー?!じゃあこんな予備校で勉強に縛り付けられて抑圧されている僕なんてピッタリかもな。」
彼は興奮して乗っかってきた。
「アリでしょ!」
「アリか?!」
「アリよ!」
これまで静かだった休憩室内に戸惑いが走る。
「ヤル!僕はヤルよ、ヘビーメタル!」
「チッチッチッ。俺はヤルぜ、ヘヴィー・メタル!」
「そうか!俺はヤルぜ、ヘヴィー・メタル!」
「YEAH!!」
「シャッアー!」
ふたりして椅子を跳ね飛ばして起ち上り、ハイタッチしたのも束の間、わたし達は休憩室をつまみ出された。どうやら逸脱したのはわたしの方だった。
でも・・・その数年後、彼は自らの名前(ステージ・ネーム)を冠したメタル・バンドを率いてデビューした暁にブレイクし、やがては一世を風靡することになるのだが、今はまだ先の話だった。
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