来訪者
「ピンポーン!」
“おい、確か3度目だぞ?もういい加減に勘弁してよ!真夜中なんだから寝かしてくれよな。”
ぼくは毛布をスッポリ頭から被った。
「ちょっと透いつまで寝てんのよ!もう昼だぞー!」
あれ?茉都香ちゃんの声だ!何だよ
茉都香ちゃん帰ってきたんだ?!
ぼくは毛布を跳ね除けて起きた。
だけど、部屋の中はやっぱりまだ真っ暗なままだった。
“あれ、また夢を見ていたのかな?”
ぐるっと部屋を見回すと、ぼくのベッドの足元の横には、さっきぼくを起こしてくれた茉都香ちゃんが、暗い顔をして立っていた。よかった夢なんかじゃ無かった。
でも、どこがといわれるとよく判らないけど、どこかいつもの茉都香ちゃんと感じが違う。
「茉都香ちゃん?」
じっと目を凝らして見ていると、ようやく暗さに慣れてきて、視界が何となく見え始めた。
さっきまで暗い顔していたと思っていたのは間違いで、茉都香ちゃんの目の辺りは窪んでいて、くり抜かれた様に両眼とも無かった。ぼくがそれに気づいたのを合図に、じっとして動かなかった茉都香ちゃんがゆっくりと近づいて来る。
よく見ると茉都香ちゃんは、真っ赤なキャンバスコートを羽織り、赤いパンプスを履いていた。
『わたしの両眼をくり抜いたのはあなた?』
”違うよ!”
『わたしを殺した犯人を知ってる?』
“知らないよ!”
『わたしの赤ちゃんを見なかった?』
“見てないってば!”(咄嗟に茉都香ちゃんに嘘をついてしまった。)
『わたしを殺したのはおまえだろッ!?』
茉都香ちゃんは怒声を上げ、耳元まで口を開くと牙を剥いて、長い爪で、ぼくに襲い掛かってきた。もうダメだ!
「ピンポーン!」
またあのチャイム音が鳴り響くと、目の前に襲い迫っていた目潰し女と化した茉都香ちゃんは消え、真っ暗だった部屋の中に朝日が射していた。
進学塾への潜入捜査に行く前に、栞ちゃんが昨夜のぼくを心配して様子を見に立ち寄ってくれたらしい。
危なかった。もしも、栞ちゃんがあそこでぼくを起こしてくれなかったなら、目潰し女になった茉都香ちゃんに、ぼくは両眼をくり抜かれるところだった。
「ところで、今は本当に現実の昼だよね?」
ベッドに坐りこんだぼくは、念のため、尋ねてみた。
「顔洗って、早く目を覚ましなさい!」
栞ちゃんにほっぺたを思いっきりつねられた。
「痛ーーッ!!」
あーよかった。
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