潜入捜査

「透くんって、湊小学校の5年生だよね?」

わたしは透に問い掛けた。


「うん、そうだよ。」


「じゃあさ、目潰し女の噂って知ってる?」


「目隠し男?口裂け女なら聴いたことあるけど。」


“それも何だか怖い”


「違う違う、目潰し女。やっぱり知らないかな?」


「ごめん。聴いたことない。」

この年頃の子にありがちな知ったかぶりをする事なく、透が正直に告白する。


「そっか、ならいいの。栞姉ちゃんの子供のころの都市伝説だから。気にしないで。」


「ふうん。それって有名な怖い話?」


「うーん関東周辺の小中学生なら、知らない子はいない位流布されていたけど、全国規模って程ではなかったと思う。口裂け女ほど有名じゃないわ。」

透を驚かせない様に、あまり中身には触れずに軽めに説明しておこう。



山林で両眼を失った眼窩の窪んだ惨い状態の遺体で見つかった当時の担任だった中條先生。ちょうど、わたしが透くらいの歳の頃、先生は双子の赤子を身籠っている身体で殺された。結局、あの非道な事件の顛末は、犯人は捕まらず解決を見ないままとなっていた。お母さんの好きな海外ドラマで言うところのコールドケースと呼ばれる、所謂、お蔵入りである。

連日、警察当局によって行われた聞き込み中心の捜査においても、目潰し女以外の目撃談が何も出ず、容疑者特定に繋がりそうな収穫は得られなかったらしい。

ローリング作戦などといえば聞こえはいいが、最終的には消去法でしらみ潰しに当たっていく昔ながらの方法にすがるしかなかったみたいだ。

日を追って疲れ切った顔で帰ってくる父の様子からは、捜査の行き詰まりを象徴しているのが見て取れた。



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