第51話
恐らく入力の受付も処理が遅くなっているのだろう。さっきまでより明らかに連打の成果が出にくくなっていて、今にも押し切られてしまいそうだ。
単純にして凶悪なレヴォリューション、と言わざるをえない。
連打、連打、連打。ひたすらな連打を強要される。この一つのクソ要素を突き詰めたこのゲームの前に、審査員の顔はもう真っ赤。
いつもならここで、剛迫は何かを仕掛けてくれるのだが……。今回、剛迫はレヴォリューションを使うことが出来ない。災禍覚醒もまた然り。
確かに審査員は苦痛に喘いでいるものの、どっちの方が苦しそうかと言われればそれはHの方だ。何せあっちはリアルダメージを与えてくるものだから、見ているだけで痛々しいほどだ。
「す、すごい……。剛迫さん、勝てるんですかね?」
横から大門が弱弱しく問うてきた。
「大丈夫だ」
この時のこの言葉は傍から見ると、情けなく頼りない励ましにも見えただろう。
だが今回は違うと断言できる。
「剛迫の勝ちだ」
こんなにも堂々と「大丈夫」を言ったことはない。
そして剛迫は、その期待に応えてくれる奴だ。
「やはりそう来たわね、H。全て私の掌の上ね」
ギラリと、黒き蝶はその目を光らせた。攻撃的な光にHは一瞬顔をしかめるが、すぐに取り繕った平静の顔に立ち直る。
「掌の上? いいえ、いいえ、よくわかりませんねぇ? 何でこの状況でそんなことが言えるので? 私のパンデモニウムクライシスの要求する連打数は……」
「そういうことじゃないわ。貴方は全てを間違えている。ここエジプトでの、「ゲーム」っていうことがどういうことなのか」
「?」
「連打ゲーは昔のゲームシステム。確かに昔はその連打数がステータスになった時代もあったわ。でもすぐにそれは問題視されて、徐々に過剰な連打を必要とするゲームは減少していった。そしてその短い過剰な連打ゲーの寿命の中で連打ゲーをプレイした人は恐らく少数。故に、連打ゲーの攻略法を知らないのよ。だからこそ貴方のレヴォリューションは今この時は有効。親指と腱を痛めつける悪魔のフォークになっているわ」
ダダダダダダダダダ。
筋肉を痙攣させるようにして打ち込みに打ち込む審査員。しかしその体力も限界かと思われたその時。
スーパースーパーサッカーの方から、子供の声が聞こえた。
見ると、スーパースーパーサッカーの次の試合はキッズカップ。人試合終えた審査員の一人が、もう一つのモードであるこれを選択したのだ。
ワーワーと、子供の声が聞こえる。無邪気に走り回って、ぎこちないプレイをする子供たち。審判はいなくなっていて、フィールドは空き地。フィールドの周りには親御さんたちがいて、スポーツドリンクがベンチの上に置かれていた。
子供たちの身体能力は低く、さっきまでと段違いにスピードが遅い。剛迫曰く・近所でサッカーをしている子供を取材して(アブナイ姉ちゃんって言われてそう)作り上げたこのモードは、パスミスなどが頻発。まさに子供のプレイそのもの。ランダム要素の塊のクソゲーである。
だが、それをプレイしている審査員の顔に、嫌悪感は無かった。
それどころか、何か懐かしむような、静かで優しい目になっている。
それはプレイしている審査員だけではない。観客も、司会も、興奮を収め、スーパースーパーサッカーを見つめている。そして、パンデモニウムクライシスをプレイしている審査員でさえ。
会場を魅了する蝶の静かな羽ばたき――
剛迫は柔らかな羽を開くように、そっと呟く。
「ロード・オブ・クロノス。ほんの少しだけ、昔に戻ってもらうわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます