第52話
音楽、音声、SE。その全てが、知らないのに懐かしい。記憶に無いのに知っているような、不思議なタイムトンネルを潜っているようだ。
ゲーム自体は確かにクソだ。プレイも不器用だ。
しかし、それでも、何でも楽しかったあの頃。
どんなゲームだって楽しかったあの頃――。
「HA!」
パンデモニウムクライシスをプレイしていた審査員の動きに変化が起きた。その人は今まさに敵との交戦の最中で、これから連打を強要されようとするところだった。
そして開始される動き。
だが、決定的にその動きは変わっていた。
「ん?」
Hはいぶかし気にその様子を見た。
会場の誰もが、その動きを見ていた。
剛迫も満足げに、その審査員の少年のような瞳を見て――
「少年の日の記憶に戻って取り戻したようね、そのカギを。そう、連打ゲーには致命的な弱点がある……。それは親指による連打をやめれば、負担が著しく軽減されるということ。そして何故か子供って、連打ゲーをやるとこの方法を編み出すのよね」
シャカシャカシャカシャシャカシャカシャカ!
シャカシャカシャカシャシャカシャカシャカ!
シャカシャカシャカシャシャカシャカシャカ!
「『こ、これは!? な、なんでしょう、この既視感は! 初めて見た動きなのに、知っているような気がします!』」
「子供はゲームに適応するようにプレイする――そしてこの方法は、子供の間のシンクロニシティの如く浸透する方法よ!」
剛迫は高々とどこからか取り出したコントローラーを掲げる。そして自らの手元に持っていくと、なんとも華麗な、しかし超速度の動きで審査員と同じ動きを始めた。
それは、見せかけの優雅さとは無縁。
子供の頃――ゲームに心から夢中になれていた意地と悔しさが生み出した動作。
やったことある?
爪やペンでコントローラーをこするように連打しまくる、アレ。
「これは通称・こすり打ちという技よ!」
このテクニックの前に、パンデモニウム――伏魔殿は、悲鳴を上げた。
あれほど手こずっていた連打があっという間に完了してしまい、審査員は次々に敵を屠れるようになっていった。その様に観客席からは立ちあがるように歓声が沸いてくる。
「バカな……!? こすり打ち!? さっきまで普通に親指でプレイしていた審査員たちが、何故!?」
あのHが明らかに動揺した声を出す。それに応える剛迫の姿の、なんと堂々としたことだろう。この異国の地でなお、この会場全体を手品に包み込む奇術師――。すまいるピエロ代表・剛迫 蝶扇。
「それこそが、私達のスーパースーパーサッカーに搭載された「ロード・オブ・クロノス」の力よ! 一時的に子供の頃に戻った審査員たちの心が、ゲームに対する解法を見出した! あるいはその記憶から掘り出した! いずれにせよ、こすり打ちを手にした彼らに、もはや貴方の禁断は通じないわ!」
「なな……! し、信じられません……信じられませんよぉ!? 審査員に相手のゲームの解法を習得させるなんてぇ!?」
「H! 私達のクソゲーは、ただ相手に苦痛を与えるだけじゃないのよ! 人の笑いの種になるゲーム! それがすまいるピエロのゲーム! 名刺代わりに受け取るといいわ!」
審査員に攻略されたクソゲーは、もはやクソゲーに非ず。
伏魔殿は「子供」の心の前に崩れ落ちる。そんな絵本のような物語に、観客は総立ちになり、
『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』』』
『『『ゴーサコーーーー!』』』
スタンディングオベーション。
その様を見て、Hは頭を垂れた――。もう最大のクソ要素を封じられた以上、勝ちの目が無くなったのだろう。
「はは……。もう、無理ですねぇ。いやはやお強い、ゴーサコさん……。降参です」
「エコノミークラスの移動で疲れてるし、そうしてくれると助かるわ」
「『降参しましたああああああああああああ! なんということでしょう、恐るべし! 恐るべしチャレンジャーだ、剛迫 蝶扇! あのランカー・Hの心を完全に
へし折ってしまったあ! 見事としか言いようがありません!』」
試合開始から僅かに10数分。見世物としては大失敗の圧勝だが、割れんばかりの拍手でその結果は迎えられた。クソゲーで人を子供に戻してしまう――。まさに奇術のようなゲームに、感動したんだろう。
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