第50話

「おやおや、随分嫌らしいものを作りましたねぇ? いちいち審判に止められるなんて、全く以てクソゲーですねぇ」

「ふふふ、それだけじゃないわ! 食らいなさい!」


 そして紳士的プレイで敵をすり抜け、一人の審査員はついにゴール前へ。

 同時に、シュートが決まる――かに見えたが。

 キーパーはあからさまにワープしてボールの前へ。キャッチしてしまった。

 瞬間、メキョッとコントローラーを握りつぶす音が聞こえた。


「ゴール全域、砕けえぬ不可視の盾! これが『ヴァニシング・アイギス・シールド!』」


 審査員は一斉に、アラビア語で罵詈雑言を叫んだ。しかし観客は大喜びで、「KUSOGEI!」「KUSOGEI!」とクソゲーコールである。

 そう。マジでキーパーが強すぎて得点にならない。それこそがこのゲームの恐ろしさなのだ。グダグダになる試合運びに加えて決定打が無い。それこそがこのゲームの恐ろしさなのである。


「『剛迫選手も負けてはいません! なんてクソゲー、こんな嫌なサッカーは今まで見たことがない! これは誰もやりたくないレベルのクソゲーでしょう!』」

「ウオオオオオ! ウオオオオオ!」

「UZEEEEE! UZEEEE!」


 二つのゲームの審査員たちは共に、叫んでいる。一つは苦痛に、一つはウザさに。戦局はまさに拮抗状態といったところだろう。

 それを見ているHの表情は、どこかつまらなそうだ。


「……で。もうちょっとあるんですよねぇ? ゴーサコさん。これ以上の何かが?」

「? ええ、無論あるわよ! 当然よ。でもメインのクソ要素はこれで――」


 Hは右手を上げた。

 それが意味するところは――ここにいる、大門以外の全員が察している。


「もういいですよ、ええ、ええ、分かりました。それならこれで終わりにしましょうねぇ」


 ピシッ。

 窓ガラスに何か堅いものが当たった。

 ピシッピシッ、ピシピシピシ!

 外を見ると、それは曇天よりも遥かに黒い雲。

 降り注いでいるものの正体は、雹だ。それも卵くらいの大型サイズの雹が、空から降り注いでいる。

 そんな外とは対照的に、画面では虹色の光が乱舞している。そして表示される文字は――


『パッチ適用(レヴォリューション)』。


 世界改編の切り札である。


「もう少しやる、と思ってたんですが、やれやれ。本当にその程度で終わってしまうなんて、所詮は小娘。その程度だったというわけですねぇ……」


 そして、詠唱する。


「リゾート・クライシスよ、微睡みに落ちよ。引き込み飲み込み、悠久に黙せ。その贄と共々に、虚無の世界を揺蕩え」


 やる気のない市販のUSBを、せり上がってきた台に突き刺す。

 始まる、リゾート・クライシスの改編。スーパースーパーサッカーを下回るためのクソゲーへの改編が、始まる――


「パンデモニウム・クライシス。……ふう、詠唱、恥ずかしいですねぇ」


 ここだ。ここで、決まる。

 俺達のゲームが、この改編を乗り切れるかで、すべてが決まる。虹色の残光が消えた後に広がる、改編後の世界。それは――


「お……」


 今度はボス戦。外国の企業の役員のような相手だ。

 審査員たちはやはり必死に連打をしているが、様子がおかしい。

 画面がカクカクしていて、バーの左右の動きが非常に不安定になっている。

 今審査員たちは勝っているのか? 負けているのか? その様子が非常に判断しにくい。

 そう。いわゆる――処理落ち。


「重くなっている!」

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