第47話

「聞こえなかった? もう私には災禍覚醒もパッチ適用も必要ないの。私はもう、「貴方に勝利した」。だから捨てたのよ」

「……!?」


 何をしてるのかわからない、と言いたげだったHに、不満げな色が浮かぶ。それはHの、一人の人間としての、一人の男としてのプライドだろう。


「ふ、ふざけているんですかねぇ? 私はまだ何も手は見せてないんですけど? 何もしてないというのに――」

「いいえ、もう見せているも同然よ! 私は貴方のすべてを、読み切っている! ここから始まるのは、勝負などではないわ! 貴方はもはや、手足を縛られた赤子も同然! 既に詰んでいるのよ!」


 OHH……

 OHHH……!

 OHHHH!!

 観客席からどんどん歓声があふれ出て、そして――


『『『OHHHH―――――――――――!』』』

『『『ゴーサコーーーー!』』』


 スタンディングオベーション。

 まだ始まったばかりだというのに、この雄々しい勝利宣言により、観客の興奮は一気に最高潮に達した。


「『なああああああああんと! なんと! なんと! なんと強く美しき、大輪の華か、剛迫 蝶扇! ランカー・Hを相手に、まさかまさかのネイキッドを挑みます! 美姫が見せるこの大和魂に対し、称賛する言葉はもはやありません! これは狂人の選択なのか、賢者の選択なのか! それを我々は、これより見届けることになります!』……す、すまん、ちょっと水を飲む……」

「お疲れ様です星見さん」


 これほどのテンションで再現してくれる星見さんにはマジで感謝である。会場は既に剛迫コール一色で、あっという間にあいつは異国の地で心を掴んでしまったようだ。

 だが――


「『NNNNNNNN―――――!』」

「?」


 リゾートをプレイしている審査員に、変化があった。

 それは紛れもなく苦痛の声。体を小刻みに揺らして、コントローラーを親の仇のように握りしめて、顔は汗だくになっている。


「な、なんだ!?」

「まさかアレは……!」

「何? 何が、起こってるの?」


 現在リゾートをプレイしているのは2名。その二人ともが戦闘に突入していて、何故かリゾート地に生息していたスライムと戦っている。

 スライムの下には、体力バーのようなものがあるが……それは緑と赤に分かれていて、徐々に徐々に、右側の赤いバーを緑が押している。

 俺は知っている。

 かつての、「こういうゲーム」への怒りを記憶している。

 禁断のクソゲー。それは、その正体は――


「ゴーサコさん、大した自信ですねぇ。会場をこうも温めてくれたことには感謝しますけどねぇ……。果たしてこれを貴女のゲームで上回れますかねぇ?」


 Hの周りに、紫色のオーラが展開された。

 髪はざわめき、その額には杖と同じく「老人の顔」の刺青のようなものが光っている。その姿とゲームの内容の恐ろしさに、さっきまで盛り上がっていた面々は戦慄に固まっていた。


「『こ……これは、このゲームは!? 一体何なんでしょう!? こ、これほど短時間で百戦錬磨のクソゲー審査員が苦痛の表情を!』」


 星見さんは訳しつつ、腕を組んで剛迫を見ていた。

 剛迫は星見さんを見返すことなく、ただ目の前の強敵を睨んでいる。


「連打ゲー」


 Hは右手を掲げた。


「私のクソゲーは、ええ、ええ。シンプルに『肉体』を破壊する禁断のクソゲーですねぇ」


 ついにベールを脱いだ、禁断が禁断である理由。

 ぽかーんとする大門に、「この」恐ろしさをどう伝えようか?

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