第46話

「H、よほど中身に自信がおありのようね?」


 剛迫が、Hに向かって毅然と言い放つ。

 それにHは、にこやかな営業スマイルを見せた。


「ええ、ええ、まあそれは。何せ並大抵のものではいけませんからねぇ。それにしてもゴーサコさん、サッカーとはこれまた意外なものをチョイスしましたねぇ?」


 サッカーの方は次々に進められていく。リゾートの方も淡々としたOP(ちなみにストーリーはリゾート地の利権を争う企業の下っ端サラリーマンの物語という夢もへったくれもねえストーリーらしい)が流されているだけで、静かな立ち上がりだ。

 そのある意味で平和な空間の中、Hは挑発するように火種を投げ込む。


「大方、私のゲームが何なのかわからないからこそ無難なスポーツゲームに逃げたんでしょうが……。ちょっと残念ですねぇ。変幻自在の奇術師と言うからには、こういった既存のルールに縛られたようなオリジナリティの無いクソゲーは作らないと思っていたんですけどねぇ」

「オリジナリティが無いですって?」

「ええ。だって、そもそもスポーツゲームの進化なんて、所詮はグラフィックや画質の進化でしょう?」


 これはゲーム界そのものへの挑発だ。

 観客席からも「OHH……!」とどよめきが。このタブーにこうもあっさり触れてしまうなんて、見た目よりも相当に豪胆のようだ。


「それならば退化も、また予測できるものです。ええ、ええ、分かります。大方ちょっとバグって選手が予想できない動きをしたり得点が異様になったり、ルールの一部が適用されなかったり、所詮はそういうものじゃないですか。ええ、ええ、所詮は既存のものをちょいといじくったくらいもの。はあ、残念ですねぇ。そんなものを私との戦いに出すなんて、期待外れもいいとこです」

「……」


 剛迫は模造刀を腰の鞘に納めた。清廉な所作に目を奪われる中でも、試合は進む。

 サッカーの方は既に国の選択に入っていて、選手たちの姿が映し出される。なお全員架空の人物で、名前も適当にその国っぽいものをつけた人達がずらりと並んでいる。

 一方、リゾート・クライシスも動き出す。雑なポリゴンで作られた町の中を雑なポリゴンで作られたサラリーマンが歩き出す。通行人の動きが少しバグっているが、全体的に軽快な動作だ。

 クソゲーバトルにしては、異様な静けさ。異様な寒気。それが創り出す緊張感の中、剛迫はキーボードに手を添えて――


「はい!」


 キーボードを。

 「俺」の方にぶん投げた。


「え!?」


 キーボードは、辛うじて俺と大門の二人がかりでキャッチした。だが、その次に飛んできた蝶柄のUSBまでもは対応できず、俺の額にすこーんとクリティカルヒットする。

 この際、俺へのダメージはどうでもいい。問題は、

 剛迫は「災禍覚醒」も「パッチ適用」も、今ここで捨て去ったということだ。


「……え、な、何をしてるんです貴女?」


 どよめき。困惑。大和撫子のご乱心に、ざわめく会場。

 その中で確固たる光を保っていたのは、剛迫と星見さんだけだっただろう。


「私の勝ちよ」

「は?」


 流石にこの宣言にはHも驚いたのか、目を見開いて剛迫を見ていた。

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