第41話

 クソゲーバトルアリーナの定員は1000人らしいが、溢れたお客が立ち見に回るほどの盛況だった。

 今回の戦いは、一対一。大会ではなくあくまで上位のクソゲーバトルであり、通常のクソゲーバトルは一対一が原則だから、とのことらしい。

 しかし俺達は関係者ということで最前列だ。周りは現地の方々や、世界から集まったのであろう異国の方々で埋まっている。つくづく何でこんな審査員拷問ショーみたいな戦いにこんなに人が集まるのか不思議だ。クソゲーとは何なんだ。


「す、すごいとこですねえ、こんなとこで剛迫さん戦うんですね……」


 俺と星見さんに挟まれた大門が、周りを見回しながら言った。


「ああ、何故かクソゲーバトルってやたら盛況なんだよ……。っていうかお前、さっきどこいたの?」

「え? さ、さっきですか?」


 目をまん丸にして、汗をかきながら唇を真一文字に結ぶ。

「い、いやあ、石川さんに連絡するの忘れてたなーって思って、連絡していたんですが……」

「エージェントでしょ! 仕事しなさい! 星見さんは民間人だよ!」

「だってあの人結構うるさいんですもん、報連相に! 怒鳴ったりはしないんですけど「楽しくやっていたようで誠に結構。が、たまには私のことも思い出して欲しいね」なんて遠回しに嫌味言ってくるんですよ!」

「意外にそういうの大事にする人なんだな……」

「そうなんですよ……」

「お主、その歳にして加齢臭がしそうな経験をしておるのう」


 がっくりとうなだれる姿はまさに疲れたОLさんそのもの。手元にウイスキーの入ったグラスでも備えたいくらいだ。


「ところで、剛迫さん一人ですけど大丈夫ですかね……」

「そこは大丈夫だろ。相手はあくまで剛迫とクソゲーバトルをするためにわざわざエジプトで待ってたんだからな。その土壇場で何かするっていうのも考えにくいし」


 俺はさっきまで、剛迫の控室でちょっとした打ち合わせをしていた。

 すまいるピエロが持つクソゲーの中で、一体何を出すか? どう戦うか? と、すまいるピエロとしての話合いだ。その最中に周りも警戒していたが、特に怪しいところは見受けられなかった。大丈夫のはずだ。


「さて、そろそろだな」


 いつの間にかデジタル腕時計の時刻は、開催時刻を指していた。

 無駄に大きいステージの上にはいまだに何も無いもぬけの殻だ。だが客席の照明が徐々に落とされていき、雑談の声も次第に消えていく。

 そしてアラビア語で何かのアナウンスが入るのだが、俺には全く分からない。


「『ただいまより、クソゲーバトルを開催いたします。スタンディングオベーションや声援、ブーイングや乱闘への参加は、節度を守ってお願いします』だそうだぞ」

「あ、どうも」


 即座に星見さんが訳してくれたが何かおかしい。何だ乱闘って。

 そしてアナウンスが終わると、

 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン

 おどろおどろしい音楽と共に、ステージの天井から何かがゆっくりと降りてくる。

 それは、ゲーム画面を映すモニター・対戦者同士が立つための机・生贄もとい審査員席・そして司会者のセット。ステージからは更にスモークも立ち込めて炎も至る所で灯り、この世の最後を見ているような気にさせられる禍々しさ、不吉さを演出している。

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