第40話

 それを間近で食らった俺は鼓膜が破壊されたかと思ったが、ギリギリで何とかなったらしい、耳鳴りが確かに聞こえる。そして、体は――


「あ、あれ?」


 さっきまでの感覚が嘘のようだった。動ける。何事もなかったかのように、五体満足だ。それを見た星見さんはさっきまでの怪獣のような雰囲気から一転、低レベルないたずらを成功させた子供のように笑う。


「ワッハッハッハ、チンケな手品より、我の気迫が勝ったようだな!」

「気迫なんすかこれ!? あんたの気迫って解呪の効果があんの!?」

「無論! 気迫に勝る呪詛などどこにあろう! ちと酒で喉が焼けていたがな!」


 いや、呪詛に勝る気迫なんかアンタしか持ってねえよ。何なんだこの歩く状態異常特効薬。

 そして顔は再び一変。鬼をも食らう阿修羅のような表情で、Hに向き直った。


「聞けい! この星見 人道の目が黒いうちは、貴様らの手品など無力と知るがいい! 我はいつ何時でも、この者達の後ろにいると思え!」

「ぐ……」


 一瞬杖を持ち上げたが、すぐに元に戻す。無駄だと悟ったのだろう。

 こんな滅茶苦茶な人がついている――敵からすると、最悪の展開だろう。Hの苦々しい表情が作るしわが、深みを増す。


「しかし回りくどい真似をしてくれるものね、H」


 カツ、カツ、カツ!

 下から、静かなお嬢様の声。

 この男だらけのむさくるしい空気に走る、一陣の清廉な風。


「私達のクソゲーのことが知りたかったら、まずは話せばよかったのに。ただ一人のクソエイターとして普通に勝負を挑んでくれば応じたのに。あんなにも強引にクソゲーバトルを持ちかけられたら、こっちだって不愉快になるわよ」


 剛迫 蝶扇。

 階段の下から、Hを見上げる。

 強く気高い騎士が決闘に臨む前のような、濁り無い立ち姿は、見る者の心を引き締めさせるようだ。


「――でもそれはそれ! お望み通りの、クソゲーバトルをしに、私たちは来たわ! そして私たちは、会った! それだけでいいわ、続きをするわよ! 私はクソゲーバトルを受けたの、貴方はクソゲーバトルを仕掛けたの! 小細工も因縁も要らないわ、ただそれだけ!」


 それを聞いたHの表情に、変化が生まれた。

 「感慨深い」――それしか、この表情を生む感情を俺は知らない。


「さあ、やりましょう!」


 純粋で一直線。イノシシ女の剛迫 蝶扇。

 極まったアホは、こうも見ていて清々しいんだ、と、俺は苦笑してしまった。

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