第39話

「今貴方の命は私が握ってますねぇ。はい、もう終わりですよぉ貴方。特に恨みは無いですがその若さっていうのがどうも厄介なものでしてねぇ……。余計なことも知ってるみたいですしぃ、このまんま捕らえちゃいますねぇ」

 体は無傷なのに、人形にされてしまったように動かすことが出来ない。脳みその指令が、脊髄の反射が、神経を伝っていないように、何一つ動かない。

 詰み。

 ゲームオーバーだ。

 もしもこれが、「シングルプレイ」だったなら。


「そこの者。その男は生憎と、我の仕事の顧客でな」


「!?」

 Hが初めて、動揺を、激しい感情を見せた。

 そう。今の今まで、「この人」は一切音を立ててこなかったのだ。Hの後ろを見ることが出来ていた俺も、その体を見るまでは感知すらできなかった。

「お主も仕事か? なら仕事を取り合うことになろうな」

 星見 人道。

 俺達のガードマンが、Hの前に立った。


「星見……人道」

 曰く・現代喰いのシーラカンス。星見さんのクソゲーバトル界での名声は、Hにも届いていたようだ。

 しかし今、Hが焦っているのはクソゲーバトルプレイヤーとしての星見さんではなく、星見 人道という人間を見ているからだろう。

「どうした? 何もせんのか。ハトや花でも取り出しては見せんのか?」

 星見さんの本当の力は、実際に戦った四十八願しか知らない。この剛腕から繰り出される力はどれほど壊滅的なのか、俺達の中では四十八願しか味わっていない。

 しかし四十八願との戦いも、星見さんは本当に全力だったのだろうか? クソゲーバトルで見せた剛迫への敵対心も、言うなれば好敵手への闘争心。爽やかで混じりけの無いものだった。

 そんな星見さんが純粋に「敵」と認識した相手と会ったら、どうなるのか。

 答えは目の前にある。

「……!」

 超常の力を操れるはずのHが後退した。

 普通、何もかも普通だからこそ、怯みもする。戦闘態勢に入った四十八願を遥かに凌ぐ闘気、敵対心は、見えない拳の乱打のように全身を打ち、叩き、砕く。

 勝てる気がしない。何を持っていても、どんな得物を持っていても、この男を打ち倒せる気がしない。

 悠然と歩く星見さんはHを通り過ぎ、俺の前に立つ。ゆらめく頭髪、ぎらつく眼光。もしも足が動くのなら、全力で逃げ出していただろう。


『『『『喝ッッッッ!』』』』


「うわ!?」

 クソゲータワーが、それだけで崩れ落ちてしまう――そう思わせるほどの、衝撃波のような巨大な一喝だった。

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