第42話

「『我々にクソを投げつけてきたのは、誰だ』」


 司会者とほとんど同じタイミングで、リアルタイム翻訳をしてくれた星見さん。流石の語学力を見せつけてくれる。


「『あのクソ達はどこからやってきた? 我々は今の今まで何に苦しめられてきた? 何であんなものたちを作り出した? 彼らは一体何を考えているんだ?』」


 ずしん。吊り下げられたセットが接地する。司会者はステージから静かに降りながら、演説するように観客席に問いかける。


「『――諸君らの常々抱いてきたこの怒り! 溢れんばかりの憎しみや苛立ち! だがそれなら何故、諸君らはここへ来た!?』」


 音楽が切り替わった。

 太鼓や笛など、いかにも日本。ザ・ジャパニーズ感マシマシの曲が大音量で流れ、観客席はどよめく。


「『分からないなら教えてやろう、変態どもめ! 我々は愛しているからだ、あのクソどもを! 遠い海の彼方からやってきたこの厄災を、それが与える苦痛を、憎みながらも愛しているからだ! とんだ変態どもだ、お前らは! 諸君は幸いである! 諸君らは今日この日、人生で最もその嗜好を満たされることになる!』」


 画面に映像が映る。

 超巨大な富士山を背景に、二つの名前。

 無駄に達筆な文字で、『H』、『剛迫 蝶扇』と書かれている。


「『どのツラ下げてやってきた!? 遂に実現! あの愛すべき変態国家! その本場のクソゲーバトルが、今ここエジプトで繰り広げられる! 日本でやれ! ジャパニーズVSジャパニーズだああああああああああああああああああああああああああああああ!』」

『『『『『OHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』』

『『『『KUSOGEI! KUSOGEI! KUSOGEI! KUSOGEI!』』』』


 そしてこの拍手喝采である。

 何なのこの空間。っていうか思いっきり変態国家って言われてるけど。完全に日本の恥じゃないですかあの人達ヤダー。


「す、すごいですねえ一鬼さん! な、なんか、すごいことしに来てる気がします!」

「雰囲気に呑まれるな大門!」


 この異様な熱狂の渦は一種の洗脳効果を持ってるからな……。大門には是が非でも理性を保ってもらいたい。


「『さてさてさてさてえええええ! 本日の変態どもを紹介しよう! 一人目は、皆さんご存知! ある日突然このクソゲータワーに出現し、その奇怪なゲームの数々で、瞬く間にこのクソゲータワーのランカーとなった男!』」


 地味にテンションまで完全再現してくれる星見さんに何か申し訳ない。

 そして左手から、のこのことHが出てくる。いやほんと、そうとしか言いようがない。何の飾り気も無く、ぺこぺこと頭を下げながらの登場は、まるで会議に遅刻して入室したサラリーマンのようだ。


「『本名・不明! H! Hさんの登場だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』」

『『『『YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

EEEEEEEEE!!』』』』


 だが観客は大喜びである。本人はすごく複雑そうな表情なのが羞恥を誘う図式だ。

 さて、次は剛迫だ。まあ流石にここは外国だし、そんなにあいつもはっちゃけはしないだろう。っていうかはっちゃけないでくれ、お願いします。

 音楽が切り替わった。

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