第34話

「いや、酒臭いし……調子に乗って飲みすぎるからいけないんでしょう」

「ほ、ほんとですよお……! まったく重いんですよこの人の筋肉! 筋肉ダルマってやつですね!」

「酒が好きだが、酒に強いわけではない……。み、水を、持ってきてくれ。願わくば座るところも探してほしい……」


 なんだこのボディガード。やっぱりダメじゃないか。

 仕方ないから、大門と俺と二人で引きずることに。見た目通りに重い、恐らくは100キロ越えの肉体は重量感たっぷりだ。そこに酒臭さと親父臭さが上乗せされると、もうこのオッサン置いてきたくなっちゃう。

 俺たちは道を進んで、検問も抜け、荷物を受け取り、ついに空港の外へと向かう。その間に何とか星見さんも少しは回復したらしく、ふらふらとした足取りながら直立歩行をしてくれた。


「う、うーむ……。お主ら、努々気を抜くでないぞ。海外は日本とは違うのでな……」

「そうよね、気を引き締めないと! ましてやここは敵地なんだから。みんなしっかり……」 


 剛迫がみんなを見回す。


「いやー、ここがカイロ! エジプトですか! ふっほーい、いいですねえ! ロマンを既に感じます! 写真撮ってていいですか!?」

「……一鬼君。あの子エージェントなのよね?」

「さっきまではしゃいでたし俺らも同罪だ。見守ってやるのが人情さ」


 俺達の少し前の行動をコピーする大門に、もはや何も言えることはなかった。

 しかし空港内は、危険なものが少ないように思えた。

 ここは首都・カイロ。昔よりも都市化が進んでいるらしく、観察すればするほど、日本の空港と文明レベルが同じように見えてくる。むしろ俺達が乗ってきた日翼空港よりも発展しているのでは? と思うくらいには人もモノも充実していて、どっかのオッサンと違って頼もしそうな警備員もズラズラと並んでいる。


「まずは何をする?」

「そうねえ。まずは荷物を置くのにホテルにチェックインするとして……。今日はそこでお休みっていうのもいいけど」


 暴走特急のこいつにしては随分大人しい案が出てきたもんだ。確かに旅の疲れというのはある。

 だが、


「何を言ってるんですか! 休息などもってのほか! さっさと敵を探しに行くのですよ!」


 やる気満々の大門が、明後日の方向を指さしながら。


「いや、気持ちはわかるけど、休息っていうのも必要なのよ大門ちゃん。乗り物って結構疲れ……」

「ふっふっふう……。学生にはまだ分からないようですねえ。お昼休みに食事以外のことが出来るってどれほど幸せか知ってますか……?」

「変なダークさを押し付けるな、俺らは学生だよ」

「とーかーく! 早めに敵を探しておくのが吉です。そもそも、相手は超能力使いなんですよ? 剛迫さんが私たちの目の届かない所で捕まったら、それこそピンチ。先手必勝は脳筋に聞こえるでしょうが、悪くないと思いますが」

「う、うーん。確かに正論だが」


 確かに、まるでそんな空気は無いが、ここは戦場の中にいるにも等しい。今にも狙いをつけたスナイパーがいるかもしれない今時分、敵のスナイパーを探し出しておくのは大切だ。


「でも大門」

「なんでしょう」

「このおっさんを前にそんなことが言えるの?」


 俺はくいっと親指をへべれけオヤジに向けた。


「我は何でもいいから、ホテルに行きたい……。空港から最も近いホテルというから、距離もかからないだろう……頼む……」

「……そ、そうですね。ホテル行きましょう」

「はい、星見さん、お水よ。飲める? ゆっくりね」


 俺たちは地図を頼りに空港の出口に向かう。多言語が入り混じる世界の中を歩く異次元体験に旅行気分を感じていると、


『……KUSOGEI』

「ん」

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