第27話
「……あ、でもエジプトのお土産はちゃんと買ってきてね。どっさりと。一人ノルマ5個。お土産はいい文化だ。旅行に行った人に圧力を与え、周りはその恩恵に良心の呵責無くあずかることが出来る……」
「その辺の石と草でいいよね」
「空港で光る骸骨とか買ってく?」
「……」
ぷいー、とほっぺたが膨らんだ。ハムスターかお前は。
「まあ、君たちが良ければ大丈夫だ。気を遣わせたようだね。じゃあ私はこの辺で失礼しよう。やることは山積みだからね」
そう言って、石川さんはドアにまで歩いていき、手をかけた。
「石川さーん! 買ってきました!」
ドバーーーン!
派手に開けた大門に押され、ドアと壁のサンドイッチになった。
大門は手に、明らかにお茶以外も入っている購買の袋を持っている。
「いやあ、心が躍るものですね他校の購買って! 焼きそばパン一つとっても青のりの有無とか大きさとか包装とか違って面白かったです! あと珍品もありましたしすごかったですよ! お待たせして申し訳ありませんが、石川さんにお土産も……ん? 石川さんは?」
「ああ、ありがとう子リスよ。御苦労ついでに、押し付けているドアを離してはくれないかな?」
「いいいいいーーーー!? 石川さんそこにいいいいいいーー!? も、申し訳ございません石川さん、だからやたらねちっこくて遠回しで無駄に語彙力の高い説教はやめてください!」
ぺこぺこ米つきバッタと化した大門。呆れたようにその様子を見ている同伴者の四十八願。
その様を見て、剛迫と俺は顔を見合わせた。
「……なんか、疲れる旅になりそうな気がするな」
「面白い旅になりそうね!」
「まさかの逆の意見!? まあお前は楽しいでしょうよ!」
かくして、話は纏まった。
剛迫 蝶扇。大門 璃虞。星見 人道。そして、俺。
俺達は明後日、エジプトに殴り込むのだ。
「羽食」
――女は未だに、その女児の声に慣れないでいた。
確かに異国の、異文化の。それをも超えた異時代の言葉のはずなのに、確かに日本語に聞こえるその声は、まるで自らの記憶を書き換えられているような違和感を与え続けてくる。知らないのに知っている、この世の誰もが知らないはずなのに理解出来るこの言語は、まさにこの女児がヒトならざるものだと認識せざるをえない。
「はい、ベス様。何用でございましょう?」
女はやんわりと温かな、しかし事務的な声音で問うた。
女児――奇妙な被り物を被った小さな背中は、大きな画面を前にしたまま振り向かない。その傷一つ無い手にはコントローラーが握られているが、画面は停止したままだ。
これは彼女がプレイを放棄しているわけではない。
ロードが長いのだ。
一回のロードに優に1分以上を費やすこのゲームを前に、しかし肩を怒りに震わすこともなく、淡々と女児は言う。
「またこの手の「くそげー」か。いまいちこれも参考にならんな。「ろーど」とやらが長いだけではないか。これは本当に「くそげー」というものなのか?」
「はい、それは世間でも低い評価を受けているゲームでございます。そのロードの長さと頻度は大変な苦痛を与え……」
「ふむ、別に待てばいいだけの話であろうに。よほどせかせかしておるのだな、今の人間とは」
話しているうちに、ロードが終了。再びゲームを再開する女児。
「呼び起されて」からずっとこの手のゲームをしていた。――あるいは彼女の娯楽の神としての権能故か、その手つきに迷いは無い。しかし何の感慨も無さそうに、ゲームを続ける。
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