第26話
「彼女は、ああ見えて、心に闇を抱えている。……その詳細は無論、彼女のことだ。そう気安く話すことなど出来んが……。彼女も多感な少女だということだ」
「……?」
「あの歳で、こんな仕事に携わるということの重み。それだけの事情。それが、彼女にはある。だからどうしてほしい、ということもないが……心にだけ留めておいて欲しいのだ」
石川さんの横顔は憂いを帯びている。
さっきまでの回りくどくてどこかウザッたいような言い回しも無い素直な感情を、初めて顔に出しているように思えた。
「ワッハッハ、心配なするな、石川殿。そういった手合いは経験があります。そこを含め、我にお任せ下さい」
「助かります、星見殿」
星見さんはすぐに書き終え、石川さんに紙片を渡すと袈裟を整える。
「では、詳細の連絡はその連絡先に下され! 我はこれにて!」
「行っちゃうんですか星見さん!」
「うむ。妻に「外出するなら牛乳とホイコーローの素買ってきて」と言われておるしな、買ってこんとな」
「既婚者だったんですか!? クソゲーバトルなんて人類の最底辺なクソ捏ね遊びしてるのに!」
「猛烈に私もディスったわね一鬼君」
「蓼食う虫も好き好き! 良い女だぞ! さて、それじゃあこれにて!」
星見さんは当然のように屋上から飛んで、ダイナミックエスケープを敢行。「また空からおっさんがー!?」「何だこのおっさん!」と空から降るのは美少女と幻想を抱く若者の夢を木っ端みじんに粉砕しているようである。
俺達も連絡先を石川さんに渡すと、石川さんは身を翻す。
「さて。君たちはアレだろう、明後日から夏休みだろう? 悪いが君の安否も心配だ。明後日での出発でよろしいかな」
「え、急ですね!? まあ大丈夫ですけど」
「相手の危険度が危険度だからね。そして相手ももう既に動いた。明日一日……いや。今日の夜から、事情の説明を両親にしがてらあの子リスを君の家に配置したい。一緒に行動をしつつ、親睦を深めるなり恋バナするなりしていてくれ」
「まあ、大門ちゃんと!? いいわね、にぎやかになりそう!」
「人使い荒いっすね石川さん」
「なら私の方がいいかね?」
全部納得した。納得しすぎた。こんな常時犯罪者フェイス、家に近寄らせたくない。
「では、子細は後に連絡しよう。して、最後に確認したいことがあるのだが」
「何ですか?」
石川さんは、屋上の端っこに目をやった。
そこでは、いつからか目立たないように必死になって小さくなっている肉まんじゅう……もとい、ふーちゃん+先輩がいる。
「あの愛らしき子猫は連れて行かなくていいのかね? 君たちの仲間では?」
「あー……。ふーちゃーん、ふーちゃーん。行かなくていいのー?」
「……めんどくさい。やだ。外国なんて行きたくない。夏休みはごろごろしたい。断固拒否する。エジプトなんて暑いし。私の幸せを邪魔するな」
「うん、知ってたわー。気にしないで」
さっきからなるべく小さくなったりして発言も最小限にしていた時点で察しはついていた。
こいつはそういうガラじゃあない。義憤に燃えて悪を倒す! なんて子じゃないし、今回は危険も伴うのだ。星見さんがいるとはいえ、強制なんか出来やしない。
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