第19話

「いつになったら普通の盤面を、あたしここでまた見ること出来るの!? 溢れだした不満と怒気を、何度でも抱いてこの世界(ゲーム)砕いて行こうよ!」

「目覚めないで! 心を走り出させないで!」


 何か知らないが魔法少女でコネクトな感想が出てきたが、実際もう何があっても挫けなさそうな四十八願でもどうしようもないくらい何もかもが歪んだ世界なのだ。唯一信じれる救いなどどこにもない。

 正直、俺どころか剛迫でもこのゲームをやってて平静を保つのは難しいだろう。このゲームの異名は「くるしい将棋」「修業」「リアルな仕事」と、とかく苦痛を表す言葉の見本市なのだから。


「はい、もうキレましたね! 今のは完全にアウトです! 貴女のクソゲー耐性は基準を満たしません!」

「そんなー!? ちょっと待ってお代官様、もう一度チャンスを! まだ、まだちゃんとやってないんだから!」

「まだ操作が簡単な「歩」でその程度ならもう終わりです! ふっふっふっふ、所詮精神力まで兼ね備えたこの大門 璃虞の領域には至らないということですね! このエリートには! このエリートには!」


 大門はここぞとばかりにぐわあっと体をのけぞらせて俺達を盛大に見下そうとする。が、俺と四十八願は顔を見合わせ、


「それって要するに単なるクソゲーハンターってことだよね?」

「それはちょっと思ってた。要するに感性がおかしい変人だよね」

「一鬼君、ヨイちゃん!? やめて、なんかちょっと私まで攻撃するの! 範囲攻撃はやめなさい!」

「この私になんたる暴言を! この敗北者が!」

「ハア……ハア……敗北者……?」

「乗るな四十八願!」

「クソ――――!」


 四十八願は全力で膝を地に着き床を叩いた。漫画なら集中線だの見開きだのが使われそうなくらい迫真の悔しがり方である。


「こんなことなら! こんなことなら最初から黒瀑波涛流秘中の秘・「虚撃ち」の応用である伝説の身体強化奥義・「ウロビト」でも使うんだったーー!」

「そんな怖い名前の伝説の奥義を使わないで下さいよ! っていうか何ですかその格闘マンガみたいな設定!?」

「だってあたし一応黒瀑波涛流の継承者候補だし……」

「もうこの人、高校生やってないでそっちの道に行った方がいいでしょう」


 悔しがる黒瀑波涛流とやらの継承者候補。

 俺はそいつにゆっくりゆっくりと近づく。


「四十八願」

「! イッチー……」


 見上げるこいつの顔は、初めて見るくらいに弱弱しい。

 所詮最強の存在でも、クソゲーには勝てない。

 だから俺は両手を広げ、傷ついた哀れな小娘に言うのだ。


「俺を讃えろ。クソゲーのテスターをやってる俺を崇めろ」

「パイセンマジパねえっすーーー! よくわかりましたーーー!」

「フハハハハハ、ようやくわかってくれたか四十八願―――! そうだ、クソゲーは嫌だろう!? 苦しかろう!? 俺はそれに毎日のように付き合ってやってんだ、これからはこの偉大なる大先輩を崇めろ! 讃えるがいいーーーー!」

「焼きそばパンをご所望ですかーー!?」

「何やってんですかねこの人達」

「ああ、一鬼君、定期的に暴走するから気にしないでいいわ」


 これで四十八願の俺への理解もさぞや高まったことだろう。その点においてこいつらの来訪は実にGJだった。

 しかし困ったことになったのも事実だ。

 第一候補の四十八願がクソゲー耐性テストに落ちてしまった以上、戦闘力+クソゲー耐性を有する人材を探さなきゃいけない。なんか大門はあんまし頼りにしたくない……というかなんか頼れないからなあ。

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