第20話

「さあ、石川さん! これで分かったでしょう、私一人で十分なのです! これで……」

「石川さんならさっきふーちゃんと、裏側の補強に行くって下の階に行ったわよ」

「ナヌーー! 肝心な時にいないですねえ! 成果を上げた時にだけいないんですからあの上司!」


 まあ。

 一人、いることにはいるんだが。

 戦闘力とクソゲー耐性を持ってる友人ってのが。

 でもね。でもね?

 でもねえ?

 「あの人」、絶対に……





「無様なことね、四十八願」





「!?」


 氷のように冷たい声。

 高校生とは思えない落ち着きを持った女の声。

 否が応でも注意を向けさせるこのオーラ。


「このまま放っといてもいいかとは思ったのだけれど。この分だと、このわたくしの知恵を貸さなくてはいけないようね」

「……この、声は!」

「まさか、あたしがこいつの接近を許すなんて!?」

「クソゲーとはそういうものよ四十八願。クソゲーを始めた瞬間に貴女の注意が逸れたからようやく接近出来たわ」


 隠し扉が開く。その後ろから現れたのは。


「ああ、全く。思った通り、その女がいるだけで最悪の空気ね、ここは」


 太平寺 暁舟(たいへいじ ぎょうしゅう)。

 最恐にして最凶の女傑は、剛迫をゴミを見るような眼で見ている。

 それに対し、剛迫もまた同じくらいの嫌悪の眼差しを向けていた。






 太平寺 暁舟を振り返ろう。

 俺が知る限りで最も恐ろしく、最も執念深く、最も周到で、最も警戒する対象で。

 そして、俺が知る限りで最も情深い人間である。

 二つ前のクソゲーバトルエクストリームの事実上の優勝者で、そのゲーム作成の手腕はハンパではない。その実力たるや、群雄割拠のゲーム・フロンティアにおいて1位を取るゲームを作成するほどで、その面白さも折り紙付きだ。

 もっとも、そこから心無いプレイヤーに貶めされ、陥れられたのが後の凶行に繋がるわけだが……。匿名性の犠牲者、とも言い換えられよう。まあ、それに対するあの行いは決して手放しに許されるもんじゃないが。

 さてはて、振り返りを済ませたわけだが、太平寺のステータスには今この時最も重要な問題が含まれている。

 それは、剛迫との関係性と相性が絶望的に最悪なことだ。


「太平寺イイイイイイイイイアアアアアアアアアアアア! なァァあああああに勝手にここに入って来てんのよこの性悪女狐女アアアアアアアアアアアアアアアア!」


 剛迫は今、普段からは想像もつかないくらいの怒りの形相で思いっきり太平寺の胸倉に掴みかかっていた。

 しかし太平寺はと言えば、それに対して虫が止まった程度のリアクションで応じる。


「何よ、別にわたくしが何処を歩こうと勝手じゃない」

「ヨイちゃん、塩! 塩持ってきて、太平寺対策に置いてたやつ! 今すぐ追い出して撒くのよー!」

「あらあらあら、随分な嫌われようですこと。そんなに嫌いなら放っておいて頂戴な。わたくしは一鬼君に用事があるの。貴女みたいな清楚詐欺クソゲー女は下水道にでも流れていきなさい、分相応に」


 まあ、ご覧のように。二つ前の大会での件が祟り、この二人の関係性は最悪中の最悪なのである。

 剛迫からすると、太平寺は全く前回の件に関して反省の色を見せず、裁かれもせずにのうのうと暮らしていることにひっじょーーにご立腹なのである。それに太平寺の冷酷さすら感じさせる立ち振る舞いと攻撃性に真っ向から反発する為に、余計に激しい争いになるのだ。

 太平寺からすると、自身の当初の計画を邪魔した存在として。そして、主義主張、性格、哲学に至るまでが真逆の存在として、非常に剛迫のことを嫌っている。しかも剛迫は太平寺と会う度に噛みついているためたいっへん鬱陶しいらしく、その嫌悪感は増す一方とのこと。

 まさに磁石のS極同士。

 生まれ付いた敵と敵。

 互いが互いを拒絶しあう関係。それこそが剛迫×太平寺の現在。

 カップリングなんて成立しようもなく、間には「VS」の文字しか入らない二人に、互いの友である俺の立場はまさに強烈な板挟み。胃薬の使用を本気で検討するほどである。

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