第二章 結成、クソゲイダーズ
第8話
すまいるピエロとして活動する拠点は部室棟の元・忍者部として使われていた部屋だ。
夏休み間近の今日も今日とて、クソゲー作りに精を出させられるはずだったのだが、今日は珍客がいる。
「ここ」を選んだ理由は、一つにまず見つからないという利点だ。忍者部だっただけに入り方が特殊で、わざわざ隠し扉を経由しないと中に侵入することが出来ない。場所を知っている生徒はこの学校内でも極々限られ、内緒の話をするにはうってつけの場所なのだ。
荷物類がどかどかと無造作に積まれた中に、いるのは三人。
すなわち、俺と剛迫。そして。
大門 璃虞と名乗った仮面女子の三人だ。
「剛迫さん」
大門は、少し疲れたような眼で剛迫を見やった。
ついさっき、ガラスの賠償だの不法侵入だの、そもそも他校の制服を着ていることから向こう側への連絡、上司への相談や今後の方針の検討等、およそ高校生の身分では味わわなくてもいいような生々しい「面倒な」ことを片付けたばかりで、本人としては少し休みたいのだろう。しかしそれでもしっかりとした態度を崩さない辺りに、警察としての意地を感じられる。
「今回の邂逅で奴らを仕留められなかったのは私の失態であり、今後も奴らは貴女を狙ってくるでしょう。誠に勝手な話ですが、貴女ももうこの件に無関係ではいられません……。貴女に今起こっていることをお話しするのは、当事者として当然のことと認識しております」
ですが。ですがですが。
すっごく不満げに、大門は俺を見やるのだった。
「何でこの人まで一緒にいるのですか! 散々言ったじゃないですか、この人には話さないって! そんな簡単に機密情報は流していいものではないのですよ! いたずらに混乱を呼んでしまうだけなのですから!」
「いーや、それは俺が許さないね! 俺だってゲーマーの端くれだ、どうしても今、あんたらが立ち向かっているという事件とやらを聞きたい! 一体何がどうなってるんだよ、何でクソゲーが世界に蔓延する!?」
「はあ~~……。うっかり口を滑らせてしまったばっかりにこんな面倒なことに! 口はまっこと、災いの元です! そもそもこんな誰も来なさそうな密室で女の子二人と一緒に居たいってだけの俗人なだけじゃないんですか!? 男子はいつでもそうですし! このソファのサイズは明らかに怪しいですし! ちょうどいいですし!」
「何にちょうどいいんじゃいコラアーー! いちいち煽るなこのダサダサ仮面! ツッコミ待ちみたいな仮面しやがって!」
「こらこら、言い争わない! 煽りあわないの!」
仮面の下から、警察とは思えないくらい幼い苛立ちに燃えた目が俺を睨んでくるがそれはこちらとて同じだ。知る権利の行使をさせてもらう。ここは引き下がれはしない。
「それに、俺だってもう部外者じゃあないだろ。少なくとも、「そういうこと」が起こっているっていうのを知っちまったんだから。それとも何だ、知られちゃまずいようなことなのかよ?」
「いいえ、そういう問題ではないんですよ。ただ……」
「ただ?」
「あの上司に、貴方にお話ししていいかをわざわざお伺いしないといけないのが嫌なんです! 勝手にお話したら私に責任が及んじゃうんですよ!」
「思った以上に生々しい理由だった!」
「働くって大変なのね……」
上司。噂に聞く、社会人にとっての絶対者であり敵対者と聞くラスボスの象徴だ。しかも心底嫌そうな表情をしている辺り、本気で嫌なんだろうと伺える。
「あの人ほんっといちいちウザったいんですよねえ。何か言い方がいちいち詩的というか回りくどいというかわけわかんないというか。それにいちいち子供扱いしてきますし私の能力を認めてない節がありますし、そのくせ無茶ぶりが多いですし……。出来ればあんまり連絡したくない相手なんですよほんっと」
「ここはバーじゃねえぞ。俺達に言われても困る」
「敵と戦っているつもりがいつしか上司と戦っていた……。理想と現実ってこういうものなんだなって、せめて二十歳を越えてから知りたかっ……」
「こらこら、私の可愛い子リスよ。陰口は君を満たすだろうが、人からは乏しく受け取られてしまうものだよ」
何処からか、地獄から響くような声。
大門は「ぎゃぷう!?」という何とも言えない奇声と共に、飛び上がるくらいのリアクションを見せた。
何だ大袈裟な。なんて思っていると――
部屋の床が、轟音と共に破壊された。
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