第70話

 優勝者のいない表彰式。俺達は盾を受け取った。

 表彰式には四十八願と不死川も参加して、それぞれ全員が賞状を受け取る。鳳凰が描かれたベージュの用紙に金色の装飾付きとそれらしいデザインで彩られてはいるが、上部の『クソゲーバトル・エクストリーム 準優勝』という最低の称号が全てを台無しにしている。

 かくして俺は、クソゲー大会の準優勝者にして、決勝の舞台で審判を務めてしまった男という凄まじい不名誉を背負ってしまったことになる。

 一週間前の俺が知ったら、ショックの余り自殺を考えていたことだろうね。

 これまたド派手な演出で彩られる閉会式も終わり、星見さんからガラス代としての10万円も返してもらった。太平寺絡みのことは色々ともやもやが残るが、かくしてこれで大会の全ては終わったのである。

 そして――俺の、すまいるピエロのテスターとしての使命も。


「一鬼君」


 全てが終わって。控室に向かう廊下で。

 不意に、剛迫は立ち止まった。


「……どうしたの、ゴー。早く帰りた」

「せい!」

「むぐ」


 四十八願が空気を読んで、重量感のある不死川の体をラグビーボールのようにかっさらってしまった。傍から見れば明らかに事案だが、この控室に向かう廊下はほぼ人通りが無い空間だ。四十八願の名誉は大丈夫のはずだ。

 そんなことよりも――目の前の剛迫だ。

 準優勝の盾を脇に抱えたまま、剛迫は振り向かなかった。見惚れてしまいそうな黒髪を俺に向けたままで棒立ちになり、スカートの揺れもおさまるくらいの間をそのままにする。


「ごめんなさい」


 そして、口火を切る。

 謝罪だった。


「……何で謝るんだよ、俺に。むしろ恨んでもいいんだぞ、お前はよ」

「そんな恥知らずな真似、しないわ。貴方には、一番辛い役を押し付けてしまったわね」

「正直に評価しただけだ。お前と太平寺のゲームを天秤にかけてな。……そうしねえと、お前に失礼だと思ってな」

「ええ。分かってる。貴方は本当に、素晴らしいゲーマーよ。きっと私は今後、貴方以上のゲーマーに出会えることは無いと思っているわ。……だからこそ、私は、甘えてしまったのかも知れないわ」

「……なあ、剛迫」


 やっぱり振り向かない剛迫。

 やっぱり歩き出そうともしないこいつの背中に言う。


「お前は、本当に強いよ。感心する。けどな……そこまで強い必要、ねえんだぞ」

「……」

「大会は終わったんだ。俺はすまいるピエロじゃない。俺は一鬼 提斗。ただの、お前の……友達だ」

「……」

「無理しなくていい。……無理しないでくれ、剛迫」

「……!」


 床に落ちた盾が割れなかったのは、剛迫の計算の内ではなかっただろう。

 手には賞状だけを握って、夜空に輝く流星のように黒髪を翻す。

 胸に飛び込んできた剛迫の姿は余りにも頼りなく。余りにも儚げで。

 そして。

余りにも。

美しかった。


「……!」


 剛迫は声にならない声を出した。

 胸元が暖かく濡れてくる。暖かさをここまで切ないと感じたことは無かった。


「……勝ちたかった……!」


 俺は、何のためにこいつに協力していたのか。それを思い出す。

 クソゲーというものが、こいつの心をこれほど捕らえるだけの存在なのかを確かめるためだ。

 そしてあわよくば、こいつの目を覚まさせてやりたかった。

 クソゲーなんて。

 クソゲーバトルなんて下らないもの、やめちまえと。

 俺の好きなものを同じように好きだったあの頃に戻って欲しかったから。

 しかし――そんなもの、結局は俺の我儘だった。

同じものが好きで、好きなもので言い争いなんかしない関係。

お互いが刺激しあわないで、良いものを同じように良いと返してくれる、都合の良すぎる関係。

そんなもの、童貞丸出しの恋愛初心者な俺の、子供っぽい我儘だった。


「……勝ちたかった……! 勝ちたかったよぉ……!」


 こいつが心の底から大好きで。

 こいつが命の限りに愛しているクソゲー作り。

 それにはどれほどの価値があるのか。

 この涙に十分すぎるほどに教えられた今。俺は漸く気が付いた。

 ほれ、見ろ。一鬼 堤斗。

 お前はクソゲー好きなこいつのことを。

 お前はクソゲー好きなこいつだからこそ。

お前は、ますますこいつを好きになっていたんだぞ、と。

 クソゲーを罵るような声で、俺は俺を嘲り笑った。

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