第49話

『これは、なんと!? じゅつを使用した途端、先制をしましたーーーーーー! し、しかも! それによって相手は一撃! 莫大な経験値が入ります!』

「ヌ……ヌルゲーですって!?」


 クソゲー判定を下されるのは、大きな激情を生む超高難易度――。確かにゲームバランスが崩壊し、ろくに攻略も出来ないゲームはひたすらにストレスを与え続け、思わずコントローラーを放り出したくなるものだ。

 だが、逆もまた然り。

 極端な低難易度もまた、大きなストレスを与えうる。戦闘で勝利することしか出来ないという決定的な爽快感の欠如は、戦闘そのものを無意味化、作業化させてしまう。

 それがもしも、『ラスボスですら』一撃で倒せてしまうようなヌルさだったら?

 序盤からの強敵との戦いでガンガンレベルは上がり、もはや死ぬ要素すら無くなってしまったら?


「そうか……アクションゲームとRPG部分を組み合わせたシンボルエンカウント方式にしたのは、最低限も最低限過ぎるやりごたえをギリギリで残すためか! そして戦闘もRPGにすることで、アクションゲームの自分の操作で敵を倒す爽快感すら削り取る……!」

「その通り。だが、そうなるのは全てエンカウントを狂わせる『饕餮の赤牙』と、じゅつの効果を引き上げる『渾沌の黒尾』のバグを同時発動した時のみよ。貴様らの最初の『鱗』、そして攻撃の威力を見た時、その傾向を察したわ。故に、ヌルゲー化を行った」

「たったそれだけで、判断して……変化させたのか!?」

「それが貴様らとの経験の違いというものよ! 血気盛んなる剛迫ならば、我が攻勢を見て必ずや負けじと対抗すると判断した! ――高難度をエスカレートさせる方向への進化を行うと! だが貴様のギガンテスタワーは、その操作の難易度・戦闘における作業感によるストレスが武器となっておる! だが! 言ってしまえばそれだけだ!」

「それだけ……ですって!?」

「その通り! 操作に慣れれば、後に残るのは作業! それこそが貴様らのギガンテスタワーの本質よ! そこに貴様は愚かにも、難易度の向上という……いわば達成感を追加したのだ!」


 難易度を上げれば、達成感を与えてしまう――

 たった少しゲーム画面を見ただけのこの男の指摘に、テスターだった俺が言い返せない――奥歯の奥がぎちりと鳴る。

 言われればそうだったかも知れない。俺はギガンテスタワーの調整を、俺の視点で、『通常版』のみの視点で行っていた節がある。

 だから気が付けなかった。

 バグの付加、という変動する要素を――


「余りに軽率! 余りに軽率よ、貴様ら……いや、剛迫よ! 貴様の独断による軽挙妄動こそがこのゲームを崩したのだ……そして!」


 数秒後、再びポーズがかかる二つの画面。


「貴様はすでにエヴォリューションの使用を宣言しておる……知っての通り、使用宣言後は取り消しが出来ん! 貴様はこの事実を知ってなお、使わなければいかんのだ! エヴォリューションを!」

「あ……ああ……!」


 勝てない――

 絶望の色が剛迫の顔に映る。

 いつもあれだけ堂々としていた剛迫が心を折られかける。その事実だけで、俺の胸も締め付けられるような思いだ。

 ここで……

 終わるのか……?

 この文字が俺達の頭の中に去来した、その瞬間。

 バチイン!


「!?」

「え……!?」


 俺達の頭上に伸びる、細くしなやかな脚。

 享楽に爛々と輝く双眸。

 四十八願 桂子の奇襲を、星見さんはその腕で見事受け止めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る