第31話

「それで、あのナイトについて何か分かることは無いのね? 45キロちゃん」

「……無い。気が付いたら眠らされてて、気が付いたら私の体重について誤解されてた」

「イヤー、ゴメンナサイネー、45キロッテ知ラナカッタヨー」

「ヨイ。また殴られたいの? そろそろ私の拳も痛くなってきた」

「ごめんなさいふーちゃんさん!」


 満身創痍の俺達三人、無傷の救出対象一人。

 傍目から見れば俺達は勇者なのだろうが、この外傷の全てが救出対象から食らったものだと察してくれる人はどのくらいいるのだろう。


「っていうことは、よ。ギガンテスタワーについて相手が知ってたのは、ふーちゃんに尋問したわけではないってことよね」


 乱れた髪をとかしながら、剛迫。目元の青タンが痛々しい。


「……そもそも、私にギガンテスタワーについて尋問したところで、そこからプログラム組めるわけないじゃん。ただ単に、ギガンテスタワーを公開させて、大会で使用しにくくしただけでしょ。あわよくば勝利して、こっちの戦力を削ろうとした」

「じゃあ、考えられるのはひとつ……。事前にギガンテスタワーの情報を、入手していた」

「……入手タイミングは分からないけど、そういうことだね……。でもそれってつまり、私達のアジトに侵入されて、尚且つ私のかけた多重プロテクトも解かれたってことだよ」

「つまり……天才ハッカーか何かか?」

「ふーちゃんのプロテクトって全部パスワード同じのザルじゃなかったっけ? 全部『AAAAA』のさ」

「そうだけど」

「そうだけどじゃねーよザル警備」

「私関連の全部が『AAAAA』だから」


 手抜き過ぎるだろこの人。手抜き過ぎて逆に入力しないとでも思ったのか。


「……いずれにしてもさ。これは結構、由々しき事態だよ。自衛の為とは言えギガンテスタワーのパッチの一つも公共の場で解放しちゃったらしいし、もしも次の対戦相手がこの場に居たら……。ゴー、ちゃんと地味に使ったよね? バレないように」


 剛迫は『地味に?』と、不敵な笑みを浮かべる。


「何をおっしゃるふーちゃん! 正々堂々、会場に響き渡るように使用してやったわ! エヴォリューションはクソゲーバトルの華! 地味に使う馬鹿がどこにいるのよ!」

「……マジでただの馬鹿じゃないのアンタ。ある意味ヨイより純粋で悪質な」


 こう口にする不死川はしかし、剛迫のことを冷めた目で見てはいなかった。

 それはむしろ――羨望の眼差しのような、何かだった。


「ってか、今パッチの一つって言ったよな? パッチって何種類かあるもんなのか?」

「……あるよ。ガチ用のパッチが3種類。あともう一つ、私が勝手に入れたのがある」

「何だよお前が勝手に入れたのって。それ入れると何が起こるんだ」

「……ひみつ」


 秘密かよ。まあ、このド外道が入れるパッチの内容などあまり知りたくもないが。


「……ま、閑話休題で。私が考える最善手を言うね。これから、一面以降の全ての主な仕掛け等を作り直して、新たなクソ要素を追加・既存のクソ要素の変更、削除をすること」

「ええ、その通りよ。100点満点の、最善ね」

「……でも、それは」

「ええ。絶対に呑めないわ」


 自分のクソゲーを、勝つためのクソゲーにはしない。

 言わずとも分かる、剛迫の信念。それを、ここにいる全員が共有しているようだった。

 剛迫の言葉には、誰も異議を挟まない。

 俺も不思議と――挟めない。

 それが合理的ではないと分かっていながら。

 この、系統の異なる三人が剛迫を中心に、一つに纏まっている。その理由が垣間見えるようなワンシーンだ。


「……っていうことで。ギガンテスタワーはギガンテスタワーのままで、行かせてもらうわ。パッチも使ったし、バグも一つ公開しちゃってる。今度の対戦相手にリークされていたら、かなり不利になることは分かっている……。それでも、よ」

「……了解。これで、もしも負けたらゴーのせいに出来る。やったね」

「お前ストレートに性格悪いよな」

「全然悪くないよ。ただ自分に正直でめんどくさがりなだけ」

「そういうこと言う奴で性格良かった試しがねえぞ。……まあ、それでも行けるんじゃねーのか? さっきの戦い見てるとよ。相手は完全にギガンテスタワーを狙ってたのに、それでも勝てた。クソゲーとしての完成度はかなり高まってると思うが」

「いいえ。――初戦の対戦相手はね。正直、事実上の決勝戦だと私は思ってるわ。かなりの強敵よ」


 そう言うと、剛迫は手紙大の紙を取り出す。

 その表面に記載されていたのは、トーナメント表。一番右端にすまいるピエロの名があり、その隣にある名前は――


「『天落』……」

「有名なクソゲーメイカーよ。ランクだけなら、この中で最高……ランク9。十分、上位陣と言えるレベル。私達よりも、二つ上のランクよ」

「ってことは、俺達はランク7だったのか」


 高いのか低いのか分からないが。もっとも、俺としては無論、低い方がいいわけだが。


「この方を打ち破らなければ、私達は先には進めない。……だから、ギガンテスタワーは今以上に研ぎ澄ませなければいけないのよ」

「……」


 責任を感じる言葉だ。

 さっきの戦いで、俺自身も自分の甘さを思い知った部分が数多く存在する。テスターである俺がテスターとしての視点で厳しく、正確に評価をして、よりクソにしなくてはいけない。

 何かがおかしい。おかしすぎるが、今は開き直ろう。俺はクソを作るのだ。自己矛盾と戦え、俺。負けるな俺。


「で、よお。こっちの方は警戒しなくていいのか? 『LOST』と、『アメイジンGOO』」


 俺は対面の組み合わせに人差し指を置く。


「んー、そっちはねえ。正直、よくわからないのよね。実は両方、この大会で初めて上がってきた人達だから」

「そうなのか?」

「ええ。両方、ノーデータなのよ。まあ、大会ではよくあることよ。ベスト4しか大会に出ないから、著名な選手でもその時々によっては出場できないことはザラよ。ランクだけは、両者6って分かってるんだけどね」


 ランク6。俺達より一つ下か。

 いずれにしても、油断出来ない相手であることに変わりはない。

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