第27話

「技……?」

「ああ……アレをやるのね、ゴーちゃん」


 俺の抱いた疑問に答えるのは、状況だった。

 自動でBGMが切り替わり、この世の破滅を嘆くような悲痛で、しかしどこか神々しい音響が響き渡る。

 喩えるとするなら、そう。終末のラッパ。

 審判達の顔はみるみる曇る。

 剛迫の前にはキーボードが出現し、そこに何かを入力すると、ギガンテスタワー側の画面に巨大な文字が電撃のように走った。

 その文字は――


――災禍覚醒(ウェイキング)――


 会場総立ち。一気に観客は沸き立つ。

 状況が全く呑み込めない俺を一人置いて。


『ウェイキング! 発動―――――――! 一体どのような災厄が審判を見舞うのかーーーー!?』

「四十八願! 説明を頼む! 一体何だコレ!?」

「言っちゃえば、バグの誘発だよ」

「バグの……?」

「バグっていうのは、特定の条件……それも、普通にプレイしてれば回避可能なものが多いじゃん?」


 バグ。それはプログラム上、予期せぬ行動が原因で引き起こされるものが多い。裏技じみた条件を満たさなくては発動しないものもあり、

中にはプレイヤーに有利な展開になるものも含まれていて、良くも悪くもゲーマーにはなじみ深いものだ。


「災禍覚醒は、それを『無条件で』引き出す技」

「は?」

「つまり起こしたいバグを起こしたいときに引き起こせるってこと。クソゲー……『ゲーム』としてそんなことは邪道かも知れないけどさ、不具合を引き起こすなんて。エンタメ性の向上のために導入されたルールなんだ。一試合に二回まで発動可能」


 バグを好きなタイミングに起こせる――。16分の1の確率で発動する、このゲームに仕込まれたフリーズバグの存在をまずは思い出した。

 アレが任意のタイミングで発動できるとしたら、いいところで発動させればかなり有利になるはずだ。この劣勢をも、打開できるかも知れない。


「イッチ―。多分、ゴーちゃんが発動させようとしてるのはフリーズじゃない」


 釘を刺した四十八願。

 その目には希望の光が灯っている。


「スタートボタンを押して出現するメニュー画面でABボタンを入力することで発生したバグ……。それを使えば、きっと……! 審判を悶絶させられる!」

「何だよその発動条件!? そしてお前らはつくづく審判を何だと……」

「――道化師の血が、白金の神槍を赤銅の塊へと変える……! 蹴撃力超低下バグ(ブロウクン・グングニル)、発動!」


 ブロウクン・グングニル。

 壊れたる神の槍――

 普通ならば発動させられることはなかったであろう裏技じみたバグの解放。

 かくしてその効果は――


「おおおおおおお! キックの威力があ!」

「激減しているぞ!」


 キックの威力激減。

 なんとあのデッドリープラントが一撃で死ぬどころか数回当てても死なず、しかもノックバックの距離まで短くなっている。キックの威力が激減し、使用回数が多くなることで自分の体力はじわじわ削られる。

 はっきり言って、かなり酷い。

 だが会場のテンションは盛り上がる一方で、まるで俺が異常であるかのような錯覚を受けてしまう。これは何かしらの洗脳なのか?


『ウェイキング発動で一気に作業感が向上したギガンテスタワー! これに対して須田選手は、一体どのような策を用意するのか!?』

「無駄ね! このブロウクン・グングニルを破れるとはとても思えないわ!」


 須田は審判と剛迫の言葉を受けて、しかし首を傾け。

 何の告知も無しにキーボードを淡々と叩き始める。


『す、須田選手!? ウェイキングを使用する時は告知をしてください!』

「……知らないよ、そんなルール。そもそも私はあんまりルール知らないでここに来てるから」


 憎々し気に審判を睨みながら。

 ということは、やはりこいつも――誰かの差し金であることは完全に確定だ。


「それに、無意味だよ。意味は『0』。色んな意味で。――積めど積めど崩される。無限の無意味な無明の苦行。『賽の河原』、発動」


 賽の河原。それは、石を延々と積み上げさせられ、ある程度積みあがったところでまた鬼に崩されるという地獄。

 ということは――?


「また……被せたのか!? バグまで!」

「ここまで行くと、徹底してるね……」


 予想を裏切らない光景が無限天獄に映し出される。

 剛迫のものとは少し異なり、相手の悪魔に緑色のエフェクトが定期的にかかり続けている。あれは、回復のエフェクト――。


『須田選手、ウェイキング! あれは、自動回復でしょうか!?』

「洞察力、『4』。自動回復。頑張って攻撃し続けてね。まあ、まだ攻撃コマンドも見つけてないみたいだけど」


 ウェイキングも潰された。

 一体どこまでギガンテスタワーを潰したいんだ、こいつは?

 じわじわとにじり寄る絶望に対し、剛迫は強気にマイクを取る。


「貴女。とてもいいわよ! でも、まだ! まだ、貴女のアギトはギガンテスタワーの喉元に届かないわ!」

「根拠の無い強がり? それなら、『5』の確率で――これで負けを認めることになると思うよ」


 そう言うと、ゆらりとした動きで席を立つ須田。

 禍々しい瘴気を纏ったような両腕を広げ――首を真っすぐにする。

 今のギガンテスタワーと無間天獄の状況は、ギガンテスタワーはデッドリープラントの群れをクリアして穴の前に差し掛かるところ。無間天獄はようやく通常攻撃の回し蹴りを発見して数発で悪魔を倒し、同じように穴に差し掛かるところだった。

 ジャンプが出しにくい、ギガンテスタワー。

 その問題点すら、相手は上回っているというのか?

 あの、パンチに化けまくるギガンテスタワーを超えるためのクソ要素とは――

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