第26話
悪魔到達まで、残り3秒。
審判は様々なコマンドを試していて、今はCボタンと別のボタンの組み合わせを模索しているようだ。
虚ろな詠唱により、会場に異様な空気が漂い始める。
「虚無の世界の探検家。ゼロの世界の蒐集家。不毛の大地の健啖家。重なる虚無と求めし魂、伸ばした手を手を手折るは己」
残り2秒。
須田は手をひっくり返し――その掌を、盃を持ち上げるように挙げて見せた。
「虚ろの世界の希望の形……自壊の歓喜・『紅蓮地獄』」
詠唱の終了と共に――
天使が急に、燃え上がった。
「!?」
『な、何事だーーーーー!?』
画面の中の天使は『ギャアアアアアアアアアア!』とけたたましい叫び声を上げながら敵に突進し、悪魔をなぎ倒した。しかし爆走は止まらず、画面の端までたどり着くと、そこで力尽きて黒焦げになって倒れる。
当然ながら、蘇生は無い。
ゲームオーバーだ。
『じ! じじじ、自殺技搭載です! なんということでしょう! 審判、紅蓮地獄はどのコマンドで出せましたか!?』
「し、CとAを同時押ししただけだ! こんな簡単なコマンドに!?」
「た……体力が減るどこの話じゃねえぞ、一撃死って!?」
「コマンドミスったら死ぬってどんだけリスキーなんだよコレ!」
「……!」
さっきの死にステータスの話題は、完全に奪われてしまった。
体力が減るどころか、特定の簡単なコマンドを押してしまえばその場で死亡……。そのインパクトは、会場の話題を完全に塗り替えていた。
間違いない。俺はこの時点で確信をする。
相手の無間天獄は――
計算された、『ギガンテスタワーキラー』ゲーム。
文字通りのキラータイトルゲームなのだ。
「お、おい、四十八願(よいなら)、これって……!」
「分かってる……」
偶然では片づけられない一致ばかりで、流石に四十八願も気が付いたようだった。相手のゲームは、ギガンテスタワーを倒すために――ギガンテスタワーの短所を更なる短所にし、クソ要素を目立たないように作られている。
純粋にギガンテスタワーの下位互換となっているだけに、審判の評価も観衆の評価も、より低い方に移るのは必定のことだ。
何故、ここまで非公開のゲームのことを知っている? 知り尽くしている?
「おい、仮面野郎! 言え、あいつはどうやってこんなゲームを作った! オイ!」
「……」
「言えっつってんだよ! やるか!」
「待った、イッチ―! 早まらないで! 返り討ちに遭うだけだよ!」
「そういう問題じゃねえだろ、コレは! 明らかに不正だ!」
「証明出来るものが無いんだよ! どっちが真似したかなんて! この戦いが終わるまでに証明出来ないでしょ!」
「こいつをぶっ倒して吐かせりゃあいいだろ! 黙って見てるよかマシだ! 二人がかりでやるぞ!」
「『随分偶然にも』、似たゲームのようね! 須田 蘭火!」
マイクを通して響いたのは、剛迫の声だった。
ステージを見ると、剛迫がこっちを向きながら、マイクを握っている。
その眼差しは、強く。
頼もしい、希望の光が宿っていた。
「残念ながら、私のクソ要素と被ってしまってるわ……。でも、そんなこともあるわよね、着眼点がたまたま重なってしまうことなんてね」
「そうだね。そうなる確率は『3』くらい。よくあることだよ」
よくもぬけぬけと、あの女――!
怒りに歯ぎしりする俺だったが、ステージの剛迫は諫めるように続けた。
「でもね」
圧倒的不利。
対策に対策を取られて。あらゆるクソ要素を真似さ。上回れた女は。
まるで諦める様子も見せずに、傲岸不遜に腕を組んで見せた。
水を打ったように沈黙する会場に、気丈な声が響く。
「それでも――私の勝ちは揺るぎないわよ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
瀕死の咆哮に、観衆は呼応した。
実況もその雄姿に興奮したのか、パンチラも気にせずに実況席に足を思い切りかけて、スタンドプレーを始める。
『素晴らしい気迫だあああああああああ! 剛迫 蝶扇! まるで怯む様子を見せません! 贔屓目に見ても優勢とは言えぬこの状況で、なお美しく強く舞い続ける、孤高の蝶! その魂の在り様、ここにあり!』
「贔屓目に見ても優勢とは……? 違うわね、おねーさん! 使うのよ、『技』を!」
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