第25話

 しかし。

 モニターに表示されるのは――

 NOW LOADINGである。

 普通ならばイライラタイムになるところをしかし、会場からは歓喜のざわめきが起こる。


『こ、これはあああ! 開幕『ヘル・ロード』がミラーしました! 序盤から、忍耐の対決になります! 果たして先にロードを抜けてしまうのはどちらだあああああ!』

「二人ともヘル・ロード……!」

「あっちい……! 俺、この開幕ヘル・ロードミラー好きなんだよな、アツ過ぎるぜ……!」

「……な、なげえぞ、二人ともすっげえ大胆だ……!」


 緊張に包まれる会場。

 流れ続けるNOW LOADING。

 何度もこのロード時間を味わった俺は、ギガンテスタワーのロード時間の長さを知っている。そしてそのロード時間はもうすぐ――

 先にタイトル画面に移行したのは、須田のゲームだった。

 二秒後、ギガンテスタワーも長いロードを抜けてタイトル画面に移る。


『開幕ヘル・ロード! 先制をしたのは剛迫(ごうさこ)選手のギガンテスタワーです!』

「うおおおおおおおおおおお! すっげえイライラしたああああ!」

「こんだけ待たせて二人とも2Dのショボいグラかよ! 最低だぜ!」

「見ろよ、あの審判達の表情! もうグロッキーになってそうだぜ!」


 かくしてタイトル画面がそろい踏み。ギガンテスタワーの横に映る相手のゲームのタイトルは、『無間天獄』。悪魔の翼を生やした天使のドット絵がタイトルを飾る。

 そこから本編に移行するが、ギガンテスタワーはロード画面に再突入。無間天獄も同じらしく、ロード画面に再突入した。


『おお、ヘル・ロードの『重ね』もミラー! これは何という塩試合でしょう! だがそれがいい、それこそがクソゲーバトルだ!』

「す、すげえ……! ここまでやるか、普通? 普通の神経なら出来ねえよ、こんな長いロードを重ねるなんて……! なんてクレイジーな女どもだ」

「審判の一人、血圧測り出したぞ……」


 この時点で、俺は嫌な予感がしていた。

 長いロードが――重なった。

 それは本当に偶然なのか?

 まるで、相手のロードを目立たせないために。あえてそうしたかのような――。現にギガンテスタワーの最初のイライラポイントは封殺されて、評価は今、平等になっている。

 そして、ゲーム本編に移行する時間もほぼ同時。

 のこのこ歩くデッドリープラントの、ギガンテスタワー。

 無間天獄は一方、のこのこ歩く悪魔が――

 あと三秒で殺しに来る位置に配置されていた。


『初見殺しだーーーーーーーーーーーーーー!』

「ど、どれが攻撃だ!? い、一体どれで攻撃すればいいんだ、これは!?」

 慌てふためく審判を見て、須田は手元のマイクに囁きかける。

「怖い? 焦る? 苦しい? それでいいよ、それで。真っ黒くて真っ黒い、真っ黒いだけの感情に囚われて――」

「ひ、もう来る!? い、一体どれで攻撃なんだあああああ!?」

「堕ちて死ぬ・『5』」


 ぐしゃあ! というグロテスクな音を立てて――主人公の天使は死亡した。

 一方、謎コマンドを持つギガンテスタワーもまたデッドリープラントに殺されてはいたが、初見のインパクトで完全にタイミングを逃している。配置されている距離が二倍近く違うのなら、当然注意はよりスペクタクルな方向に向けられる。

 ギガンテスタワーをプレイしている審判も、『あっちよりはマシか』と言っているような表情で、無間天獄のゲームオーバー画面をぽかんと眺めていた。

 一番最初の画面のクソ要素は、無間天獄が圧倒的。

 最初のポイントを、奪取されてしまった形になるだろう。


「貴女のゲームへの関心度・『2』。私の無間天獄の関心度・『5』。もうすでに大分差がついたみたいだね、剛迫」

「何を言ってるのよ、勝負はまだこれからよ!」


 そう、勝負はこれからだ。

 言いようのない不安を抱えながら迎える、コンティニューによる再開。だが、ここで剛迫と須田に更に差がついてしまう事態が発生してしまう。

 審判が――キックを見つけてしまった。

 パンチよりも、先に、だ。


『おっと、ギガンテスタワー! ついに攻撃方法を見つけたようです! しかし何だこの攻撃は、体力が減っていくぞーーー!』

「……先に言っておくわ! それで減る体力ゲージだけどね。その体力ゲージが機能する場面は、キック以外に一回しかないわ!」

『し……『死にステータス』です! というより、何でナイトがキックをするのかも不可解です! これは『電波』も加点となるでしょう! 背中の剣は自決用なのか、騎士のブシドー!』


 ここで剛迫は強がったが、これは苦し紛れにも近いだろう。

 何せ、キックは強い。

 テスターとしてやっていたから分かるが、キックさえあればパンチは完全に必要の無い攻撃なのだ。

 だが、それでツッコめるのは、パンチを先に見つけることが条件になる。

 キックを先に見つけられたことは、クソゲー的にはマイナスであることは免れないだろう。


「死にステータス? やること甘いよ。甘さ『4』」


 と。

 不吉な風に乗せるような声が、会場の空気を取り込む。

 須田は首の角度を変えた。より大きく傾けて、しかし表情は変えないという異形の姿となる。

 無間天獄はまたも初見殺しを逃れられず、再スタートを迎えたところだった。またも迫る悪魔。

 その首領となったかのように――須田は、悪魔に手をかざして詠唱を始める。

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