第22話

 俺は警戒をしながら四十八願の横に仕方なしに戻って、また周りを観察する。見ると、大型モニターの他にカジュアルプレイ的なバトルも各所で行われているようで、小さな人だかりがあちこちに出来ている。

 そこでもクソゲーバトルをしている人達は叫ぶ。キメる。ノリノリである。それに呼応して盛り上がるギャラリー、曇り顔の審判達。

 モニターに映っているクソゲー達は、当然のようにどれもが酷い出来だ。

 奥にはショップもあり、恐らくはクソゲーを専門で取り揃えているのだろう。ショーケースの中に君臨するクソゲーはいずれも一部では有名なタイトルで、中には箱がボロボロで『砂漠から発掘された一本です』と注釈の入ったゲームも入っている。

 ここはまさに、クソゲーの聖地――というわけだ。

 俺にとっては地獄そのものの景色を前にして、ため息ばかりが出る。


「お待たせ! さっきの試合見てた!?」


 剛迫が顔をきらきら、肌をつやつやさせて戻ってきた。

 遊園地の子供と完全に一致である。


「半分見た。どっちが勝ったんだアレ」

「不破さんよ! 決め手が、エンディングのカオスさと救いの無さ。エンディングをあそこまで救い無く後味悪いものにするなんて、さすが十重二重の罠を張っちゃうのね……! 年季が違うわ!」

「クソゲーの年季って何なんだ……」

「しかも今回がランクの昇格試合で、不破さんはこれでランク9に昇格! 私、感動しちゃった! ずっと応援してたもの! 握手もしてもらっちゃった!」


 案外ミーハーだ、この人。


「ほら、手を出して。私を通して、不破さんのクソゲークリエイター魂を分けてあげるわ!」

「いや、いらねえよ! お前のだけならいいけど変なのくっつけんな! 呪いが感染する!」

「じゃあ、ヨイちゃんに! お土産!」

「へへへ……あ、ありがと……」


 超絶ハイテンションな剛迫に圧倒される四十八願は、困り顔で握手をするのだった。

 周りの連中は、俺のことをダイヤモンドを漬物石に使った不届き者を見る目で見ているが、知るか。


「さあ! じゃあ、いろんなとこを見て回るわよ! クソゲーの勉強をしっかりして、今後に励むのよ!」

「お……おう……」


 こうなってしまった人間を止めることはバッファローを止めるよりも難しいことを知っている。ここはもう、従うしかないのだ。

 剛迫はがっしと俺の手を取り、めくるめくクソゲーワールドの世界の案内人となることを宣言し、いざ駆けださんとする。

 だが、一つだけその前に。


「おい、剛迫」

「何?」

「不死川、どこ行った?」






 不死川 紅の身長は確実に150センチ以下。下手をすれば145を下回っている可能性もある低身長である。

 それに加えて不死川はほとほと存在感というものが無い。何に対しても興味を持っていない、世捨て人じみた微弱すぎるオーラは、まるで探す俺達を嘲笑うかのようだ。


「ふーちゃーーん、ふーちゃーーーん、出てきなさーい!」

「迷子のお知らせをいたしまーーす! ちょっとぽっちゃり気味の、信じられないほどダッサイ服を着た、16歳くらいの、不死川 紅ちゃーーーん! あたしがお待ちでございます、あたしまでお越しくださいませーーー!」

「ちょっと、ヨイちゃん! ふーちゃんのことをぽっちゃり扱いするのはやめなさい! 柔らかくて肉付きがいいだけよ!」

「えー? ゴーちゃん、ふーちゃんのお腹見たことないでしょ? ぷよってしてるよ! ぽっちゃりっていうか、もうアレデブって言っても……」

「その考えが不健康なスレンダー嗜好を加速させるの! 健康的な肉付きって言うのよ、ああいうの!」

「だって体重52ってあの身長でそれは……」

「体重52キロが何よ! ま、まあ、身長対だとちょっと太めかもしれないけど、うん……でも、52キロだってふーちゃんは女の子なのよ!? 52キロでも!」

「うん……そうだね! あの身長で52キロでも、女の子だもんね!」

「分かってくれてありがとう!」

「ビバ! 52キロ!」

「いえーい、52キロ!」


 不死川の体重を大声で暴露しまくった二人は謎のハイタッチをかました。

 俺達はこれ以上迷子を増やさないよう、三人で不死川を探していた。三対の目でクソゲーハウスの殆どを回ったが、あのダサい太いやる気ないの三拍子が揃った後姿を拝むことは出来ない。

 通話は何回もしているが、応答することも無い。

 つまり、本格的な迷子どころか――

 それ以上の可能性すら、あるということだ。


「っていうか、剛迫は気づかなかったのかよ、あいつがいないくなって? 横に居たろ!」

「試合観るのに一生懸命だったもの……。それに、ふーちゃんって気まぐれだからその辺うろうろし始めたりするし、それでね……」

「お前は護衛だろ四十八願! 何で目を離してた!」

「イッチ―が離れたからだよう!」

「……いや、だってお前怖かったし、な?」


 罪の擦り付け合いが始まってしまった。

 この不毛な戦いを一度リセットするために、俺は二人を止める。


「まあ、こういう時は、少し落ち着こうぜ……。少なくとも、剛迫。お前のファンが居た時は、一緒に居たよな、不死川」

「ええ、居たわね。……ってことは、ファンの一人にさらわれてお腹をぷにぷにされてる!? なんてこと!」

「え? じゃあ何、久々に半殺しを解禁出来るの?」

「二人ともやめい! 特に四十八願やめい!」


 目の光が消えて拳を撫で始めた四十八願の手をはたき落とした。こいつマジで何をしてんだよ、戦闘狂が。


「だから……。まだ遠くにはいっていないはずだ。そしてここにいないってことは、外に行った可能性もある。すぐ外を探すべきだ」

「おお、さっすがの推理! よ、現代のツタンカーメン!」


 そういう人だったっけ、ファラオっていうのは。


「じゃあ、あたしが外に行くよ! おっしゃ、燃えて来たあ! この『平成の人間ベニヤ板』を舐めたことを後悔させてやるよお!」


 攻撃特化の紙装甲みたいなあだ名である。

 四十八願は言うが早いが、反転して出口を向き。強靭な足を躍動させてダッシュをかけようとする。

 だが。


「その推理の正確さは『3』。半分だけ当たり。でも、手がかりも無しに探せる可能性は『1』。そんな簡単な場所に彼女はいない」

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