第23話

 ダッシュの一歩目で聞こえた、霧の夜に響くような声に、四十八願は足を止めた。

 声の方向を見ると――一人の女の子が立っていた。

 まるでマジシャンのようなつばの大きな黒い帽子をかぶり、体には随所にハート型の穴が空いたローブを纏っている。人形のように整った顔立ちが浮かべるのは固定化されたような無表情で、首が少し右に傾き続けているのが不安をあおる。

 クソゲーハウスに、女の子がぽつんと一人だけ。そんな『異質』が語る、俺達の推論への評価。

 四十八願は戦闘態勢を敷き、女の子に進み出る。


「何? 何か知ってるのかな? 言っておくけど、こう見えて荒事は慣れてるよ、あたし」


 いかにも荒事に慣れていそうな目でにらまれてなお、表情筋をまるで動かさず、


「知ってる。全部知ってるよ。でも、暴力なんかで吐くつもりはないし、それに」


 四十八願の攻撃の初動。

 それを他ならぬ四十八願自身が止めたのは、この女の後ろにいつの間にか立っていた『人間』の殺気に気が付いたためだろう。


「護衛を侍らせているのは、アンタ達だけじゃない」


 この女の後ろに立つナイトは、黒い仮面を被っていた。

 マントを全身に纏っている為に体型も分からないが、身長は恐らく180を超えているだろう。髪の色は金髪のロングヘア―で、その怪しげな装いに似合わぬ高貴さをたたえている。

 四十八願は何度か初動を繰り返していたが、そのたびにナイトがそれを察知して防御をしているのだろう。傍目からはほぼ立っているだけの二人だが、既に幾たびもの攻防戦が行われていて、やがて四十八願は悔し気に歯噛みをする。

 かくして、実力行使の手段は封じられ。

 女は、剛迫に視線を戻した。


「私には望みがある。それを叶えてくれれば、アンタの仲間の居場所を教える」

「貴女の望みを?」

「その通り。――ギガンテスタワーで、私とバトルをすること」

「!!?」


 ギガンテスタワー。

 何気なく口にした単語だが、これを相手が知っていることの意味が分からないはずもなかった。


「てめえ、何でそのゲームを知ってる!?」


 ギガンテスタワーは、秘匿していたはずの剛迫のゲーム。それも、大会の初戦で出すための、大切な一作だ。

 それなのに、何故秘密中の秘密を相手が知っている!?


「お前、まさか! 不死川に何をしやがった!?」

「私自身は何もしていない」

「じゃあ……じゃあ、何でお前は知ってるんだ! そのゲームの名前を! お前は――」

「慌てることじゃないわ、一鬼君」


 その声は、絶望的な状況に怯える新兵を勇気づける歴戦の将を思わせる力強さを帯びていた。

 見ると、剛迫は口元に不敵な笑みを浮かべ、山のようにどっしりとした腕組みをしている。


「相手が何でギガンテスタワーを知っているのか。それは予想出来るわ。いつも、ヨイちゃんにもふーちゃんにも言ってるの。自分の身が危険になったら、自分の身を第一にして、ゲームの情報でも何でも言われたとおりに話せって」

「何!?」

「だって、そうじゃない。私のゲームのために、大事な仲間の身を危険に晒させるわけにはいかないわ」

「そ……そりゃあそうだろうけど……いいのか、お前はそれで!?」

「当然よ。当然のことをしているだけだもの」

「……!」


 それにね?

 剛迫は一歩前に進み出て、女と対峙する。

 燃える闘志を漲らせた瞳だった。


「誰が相手だろうと何が相手だろうと……! こんな卑怯な手段を取るような奴に、私のクソゲーが負けるはずはないわ! 何が目的なのか知らないし、アンタのバックに誰が居るのか知らないけどね! 私のゲームを潰すにしろ情報を見るにも、絶対に私には勝てないわ!」


 その啖呵は、周りの視線を集めた。

 気が付けば俺達を囲むように輪が出来ていて、二人のやり取りを観戦していた。しかし当の本人達はただ相手のみを見据え、火花を散らしている。

 その中で剛迫は、最終作戦を実行する指揮官のような大振りで腕を引いて――指を突き出す。


「受けて立つわよ、その勝負! 私のギガンテスタワーで!」

「……勝利可能性・『4』」


 不死川の情報を賭けて、自分の情報を晒す。

 それは愚かしくも正しく、賢くも間違った。

 しかし、最も気持ちのいい――剛迫 蝶扇の決断だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます