第19話
「分かったら、テストを継続するの。クソゲーとしてのレベルがどうか、素直に言って頂戴?」
「俺の中ではもう既に最高クラスのクソゲーなんだけどな、これ……。そもそも、大会レベルのクソゲー達の基準が分かんねえよ。どれくらいクソならいいのかとか、こうしたらよりクソになるんじゃないかとか、求められるクソ要素が分かんねえんだよ、俺」
「あら、そうだったの? 盲点だったわね、それは……」
常識として認識してたというわけか。こいつに漫画とか書かせたら、わけのわからん物理法則を日常会話で解説無しでさらっと出しそうだな。
「……ゴーちゃん。一つ提案なんだけどさ」
「はい、何かしら?」
不死川がもっさりとしたクソゲーアクション主人公の如き動きで俺の上で身を乗り出す。
……近いんだよ! いいのか、触るぞ! 触っても文句ねえレベルだわコレ! 何が近いのかはあえて言わないけど!
「クソゲーハウスに一回連れて行った方がいいと思うよ。そこで、色々教えてからテストさせた方が多分捗る」
「それもそうね。よし、じゃあそうしましょう。口で説明するより見た方が早いわ」
「クソゲーハウスに行くのか?」
「ええ。――高校生の夜遊びは感心しないし、今日、今すぐ行きましょう! よし、決まり! 着替えたら、駅前に集合! いいわね!」
気持ちいいまでの即断即決、独裁政治。剛迫は勢いよく立ち上がると、自分の荷物をぱっぱとまとめ始めた。ここまで生き生きして行動力を発揮する人間を見ていると、ある種の清々しさを感じずにはいられない。
「ところで、不死川も行くのか?」
俺が言うと、不死川はやる気なく。そしてどこか疲れを滲ませたような目を俺に向けてくる。
「……ゴーちゃん、クソゲーハウスに行くとテンション上がって子供みたいになるから。すっごく嫌で仕方ないけど、私も行く……すっごく仕方ないけど」
「あ、ありがとうな」
「めっちゃ嫌だけど」
「あ……ああ……」
「いちいち一鬼君に分からないこと解説すんのめんどくさいし家でごろごろしてたいし今日新刊の発売日だしお菓子食べてたいしぶっちゃけ私クソゲーハウスの空気嫌いだし何か暑いし着替えるのめんどくさいし家が少しだけ遠いし寝癖の具合がいつもより悪いしヨイがいなくて安全面が心配だしそもそも家の門限が9時までだし9時までにゴーちゃんが収めてくれる保証なんか殆ど無いしなんかいつもより肝臓のあたりがむにゃっとするけど、行くよ」
「ご足労、申し訳ありません不死川殿! 俺が身命を賭してお守りします!」
「……けっ」
おっそろしく不満たらたらな不死川だが、なんだかんだついてきてくれるのはありがたい。クソゲークリエイターとしての血が完全覚醒している剛迫からクソゲーの解説を受け続けるのはきつすぎるがある。
「それに……一つ、気になることもあるしね」
「気になること……?」
「……あ、いいや。どうでもいいこと。聞き流して」
明らかに誤魔化され、不死川もまた荷物を持ってのっそり立ち上がってしまう。
昨日の男への言葉といい……不死川は、どうも何かを背負っているみたいな節がある。しかし絶対に教える気は無いだろう。人には触れられたくない部分というものが必ず存在しているものだし、今はそっとしておこう。
それはそれとして。
一つ、どーーしても気になることがある。
「で、さ。不死川。最初の質問なんだけど」
「……何?」
「クソゲーハウスって何だ」
「ま、クソゲーハウスっていうのはねー。一鬼君、カードゲームやったことある? カードゲームって、身内だけじゃなくて、知らない人とも戦う為の場が用意されてるケースがあるんだよ。主にカードショップとかでね。クソゲーハウスっていうのは、それのクソゲーバトル版だと思ってくれていいよ!」
我らが解説役にしてカオスの化身にして俺の専属話し相手・四十八願先生の有りがたいクソゲーハウス講座である。
時間は結構飛んでいて、俺は今、駅前の集合場所で四十八願の講義を受けている。小さな駅だが周りには二階建て以上の商業施設が並んでいて、人もそれなりの数がひっきりなしに交錯している。そんな中に一番で到着したかと思いきや、見知った顔が人ごみの中に輝いていたのだ。
意外過ぎる登場に驚く俺への解説によれば何でも、不死川に呼び出されたらしい。解説役をいちいち担当するのは面倒だから、という理由で。
さらっとエゴイストな剛迫、ストレートにエゴイストな不死川も、わざわざ部活を抜けてまで来てくれるこの献身っぷりを見習ってほしいものだ。
「ありがとうな、四十八願……。俺、やっぱお前がいないとダメかも知れない」
「へっへっへ、あたしはこの開発部の太陽だからね! ビタミンA、B、C、B1、B2が不足したらいつでも呼ぶといいよ!」
「何で正解のビタミンDが抜けてる。しかもわかりにくい」
「ギャグはインテリジェンスな世界だからね!」
と、頭を指さす四十八願先生だった。
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