第15話

しっかりと四十八願(よいなら)の陰に隠れながらであるが、ジト目のままで厳しい視線を男に送っている。


「俺か? 俺は、単なる通りすがりのクソゲークリエイターで」

「……嘘つかないで。アンタのバックに居るのは、誰?」

「……」


 男の目が、鋭さを増した。

 それで四十八願は威嚇目的で『バシン!』と自分の肩を木刀で叩き、不死川(ふしかわ)は更に後ろに下がる。


「何で俺のバックに誰かいると、そう思った? お嬢ちゃん」

「……アンタのポイントが、不自然だったからだよ。あのレベルで50ポイントも溜められるとは、到底思えない。『八百長』したでしょ?」

「八百長?」

「無知な兄ちゃん。このお嬢ちゃんが言いてえのはつまりな。化け物みてえなポイント持った奴と戦って――わざとそのポイント多い方に負けてもらって、ポイントを一気に稼いだってこった」


 男自ら、自分に向けられている疑惑の解説をし始めた。


「でもなあ、お嬢ちゃん、考えてもみなよ。俺の作品なんかに50ポイントも与えられるようなハイクオリティ……いや、ロークオリティな作品、ほいほい与えられるような奴、居ると思うのか? 八百長ってのはまず、与える作品のポイントが高くねえと成立しねえ。そんな気風のいい奴が――」

「……高め過ぎた自分のランクを落として、戦いたい相手とランクを合わせたい。そんな人とか」

「……」

「……アンタ、偵察役か何かでしょ? 正直に」

「必要ないわ、ふーちゃん」


 制止したのは剛迫(ごうさこ)。

 もう要件を済ませたらしく、携帯電話をポケットに仕舞い込むと、男の前でふてぶてしく腕組みをして見せた。


「相手のバックに居るのが誰なのか? その人の目的が何なのか? そんなことを知ったところで何になるって言うのよ。どんな相手だろうとも――私達は、私達のクソゲーで応える。それだけでしょ?」

「……」

「貴方、もしもバックに誰かいるのなら、こう伝えておきなさい。私達のクソゲーは、小細工を弄したところで敗れるものではない、とね」


 男は何も言わずに、身を翻して掛け軸の向こうに出て行く。

 突然に始まったクソゲーバトル。それは今ここに終息し、俺は解放されたのだ。


「さて……思わぬ邪魔が入ってしまったけど、みんな」


 と、唐突に剛迫が全員に呼びかける。

 いつの間にかコントローラーの所有権を奪取しており、いつもは使わない眼鏡を掛けていた。


「そろそろ遅いし、私もコレでやりたいこと出来たから、今日は解散にしましょう」

「? 何かやっていくのか?」

「うん。まあ、大したことじゃないわ。貴方も疲れたでしょう? 審判やって」

「そりゃな。すっげー疲れた」


 疲れるどころか魂をガリガリ削られた気分である。


「私達の業界でその疲労は『クソ疲れ』と呼ぶわ。良作でも遊んでゆっくり心を癒しなさい。クソ疲れが進行するとクソゲーが嫌いになってしまうわ」

「クソゲー嫌いだから疲れてんだよ! 何で俺が元々クソゲー好きみたいな扱いになってんだよ!?」

「クソゲー好きでもクソゲーは疲れるわよ、クソだもの。クソだからクソゲーと呼ぶのよ」

「今更ながらクソクソ連呼すんじゃねーよ! 意味分かって言ってんのか!? クソってのはすなわち『う○――』」

「お、およしなさいよ! 汚い言葉を使わないで、女の子達の前でしょう!?」


 何でこんな狼狽してんだよ。さっきまで連呼してたくせに……


「あのー、もしもーし、イッチ―? そろそろ帰ろーうよー、雑談もそこまでで!」


 不毛な戦いを終わらせたのは四十八願である。

 片手で今すぐにでも帰りたがっている不死川を捕獲しており、もう片方の手ではエビコスチュームを抱えていた。結構重そうなのに、やはりかなりの筋力があるのだろう。


「そうよ、早く帰った方がいいわ。そろそろ部活動も終わる時間だし、明日も学校よ。宿題でもやって、早めに寝なさい」

「はいはーい。ほら行くよ、イッチ―!」

「お、おう。あー、剛迫、んじゃな」

「お疲れ様」


 半ば強引に四十八願に連れ出され、俺は開発部から退出を余儀なくされるのだった。

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