第14話
「さあ、ではジャッジをしなさい、一鬼君!」
「判定をしろ! 平等な目でな!」
コレだよ。
あのヘビー級のクソ共の相手をした後に、またもう一度蒸し返せというのだ。あの悪夢のようなクソゲー共のメモリアルを。
「なあ……こんなこと言うのも何だけど、本当にいいのかよ? 俺なんかがジャッジしても」
「当然よ。私は貴方の意見を信頼してるわ」
「俺も同じだ。確かにお前はこいつ寄りだろうが、目を見れば分かる! ゲームに関して嘘をつけるような男じゃねえってな! 俺はお前のジャッジなら……」
「勝者・剛迫」
CMがあるわけでもないのだ。
飾りやタメなど、一切要らないだろう。
一刀両断、単刀直入。それでいいのだ。
俺の即決に驚いたらしく、男は目を見張り――
「なんでだ!? き、貴様! どう見ても俺のゲームの方が疲れていただろう! 貴様仲間だからといって……!」
「仲間じゃねえよこいつは! むしろ今は敵対関係だ! でもな、俺は何千回繰り返してもこいつのゲームのがクソだと言うぜ!」
そんなクソゲー無間地獄など味わいたくはないが、実際そうだ。
食ってかかってきた男を見て四十八願は木刀に手をかけるが、剛迫が制する。
「待って。一鬼君――。まずは、選評を言いなさい。何で私のゲームの方がクソだと思ったのか? それを言わなければ、納得も出来ないわよ」
「ああ、そうだな。……一言で言えばな、お前さ」
俺は男に向き直った。
俺より年上な男をお前呼ばわりするのもどうかと思ったが、相手は襲撃してきたうえに、プレイしている最中にコントローラーを弾き飛ばしてきたような男だ。敬意など払う必要もないだろう。
「ゲーム、ろくにプレイしてないだろ?」
「な……!?」
「なんつーかさ……。お前のゲームのクソさって、既視感があるんだよ」
俺は大海獣オクタパスのタイトル画面を指さす。
「はっきり言えば、お前のって、良くないシミュレーションの良くない部分を、ほんの少し強化しただけって感じがするんだよ。昔のシミュレーションゲーム、やったことあるか?」
「そんな古いのやってるはずねえだろ!?」
「やれよ。昔のシミュレーションゲームって、これみたいにムービー飛ばせなかったり、動きが妙に重かったりしてテンポが悪いゲームがあるんだよ。――だから、すっげー既視感があるんだ、このクソさ。それに、敵がこいつだけっていうのも、むしろそれはクソゲー的には救いになってねえか? 薄っぺらでボリューム無くしてるつもりなんだろうけどな、それじゃあ俺を苦しませるには足りねえ……。とにかく、ゲームそのものだけじゃない。全部が薄っぺらいんだ」
「うう……!?」
そう。薄っぺらなゲームなのだ。
それは、まるで――
「そうだな……。ちょっとゲームで嫌な思いしたからって、その悪い部分だけを強調して。『ほら、クソだろ? こういうのホントクソだろ?』みたいに、言いたいだけ。憂さ晴らしのようなゲームに思えるんだよ。お前のってさ」
要は、創造性の無いクソさだ。経験も考察も愛情も何もかもが足りていない、クソゲーですらない――感情の不法投棄だ。
「だけど、剛迫のは違う」
思い出すのも嫌だったが、剛迫のゲームを思い返す。
「あいつのあのクソさはな。ゲームが好きじゃないと出来ないクソさだ。何せ、あいつ、格闘ゲームに求めていることを悉く削り取ってやがる――。お前、格闘ゲームに何を求めてる?」
「……相手の動きの読みあいだとか、敵をぶっ飛ばす爽快感だとか、か?」
「そう。そしてあのゲームには、それらが一つでもあったか?」
単調な敵の行動パターン。
じりじりとしか削れない敵の体力。
KОが実質的に封じられている。しかしその手前までは持っていけるという、嫌らしい攻撃力と防御力の調整――剛迫が『イージス』と名付けたバランス。
それは、格闘ゲームの胆である『爽快感』の完全なる欠如。格闘ゲームをプレイする意義そのものを奪い取るシステムなのだ。
「剛迫はな――お前が想像もつかないほど、大量のゲームをプレイしていて、ゲームに関しては圧倒的な厚みを持ってるんだ。良作も名作も凡作もクソゲーもプレイし尽くして。良いところも悪いところも知っているから――ゲームのことが好きだから、こう出来るんだ、と俺は思ったよ」
「……!」
「だからこそ俺は言い切る。クソなのは、剛迫のゲームだ」
「くっ……! お、俺の、負けだ……! お前のがクソだぜ……!」
「当然の勝利ね」
……これがいかに狂った戦いなのかがよく分かる。
おかしいなあ? 理解度も愛情もこもってるのが分かってんのに、何で俺、剛迫のがクソゲーって言ってんだろ? クソゲーとして優れているって一体何なんだろう。けなしているのに褒めているって一体何なんだろう。
「さて、勝負も終わったところで協会に連絡をしようと思うのだけど――貴方に、一つ訊きたいことがあるわ」
剛迫は勝利の余韻に浸ることも無く、淡々と携帯を取り出して。余程この作品のクソさに自信があり、勝利を確信していたのだろう。
それは、勝負そのものよりもむしろ――
この後の方が大切なのだ、と言わんばかりの態度。
「この作品を、後は一体どうするつもり?」
「あ?」
「協会に連絡をしたら、この作品は身内以外には一切公開も出来ないし、エントリーも出来ないのよ」
剛迫の問いに対し、男の返答はしかしあっさりとしていた。
「もう意味ねーし。容量圧迫すっからな、削除するつもりだぜ。――数時間で作れたやつだし、そんなに勿体ねえとも思わないからな」
「……そう。じゃあ、連絡するわ」
剛迫の顔に、勝利の余韻は無い。
それどころか、敗北者であるはずのこの男よりも――遥かに悲しげな色を浮かべていたことを、俺は見逃してはいなかった。
「それじゃ、バトルも終わったことだ……。俺はこの辺で失礼――」
「……待って。アンタが何者なのか聞いてないよ」
と。
男を引き留めたのは、意外や意外――不死川だった。
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