第13話

 ゲームジャンルはシミュレーションRPG。

 将棋のようにマス目の付いたマップを、ユニットと呼ばれるコマを動かし、耐久値付きの敵のコマをこっちのユニットの攻撃で撃破する(撃破だけが目的ではないケースもあるが)というゲームジャンルだ。

 この作品は自衛隊になって大海獣・オクタパスを討伐せよ、という話であるらしい。


「……」

「クックック」


 成程。

 これも相当な強敵であるらしいことを、俺はゲーム開始5分で思い知らされる。

 これも意外にサクサクと本編までは進めていた。

 大海獣オクタパスなるものを討伐するために俺は自衛隊の指揮官となり、海上のオクタパスを撃破するために出動する。そしていざオクタパスと対峙し、開戦――というところだが。


「……!」


 長い。

 重い。

 とにかく、ユニット(いわゆるコマのようなもの)を動かすたびにユニットに余計なモーションが入り、そのたびに強烈な処理落ちが入るのだ。

 しかも強力なユニットになるたびにモーションが豪華になり、豪華になるたびに加速するロード地獄。

 これは、例えるなら、そう。

 足に鉄球を付けて100メートル走を行うような、じわじわと精神を汚染される類のクソさだ。


「ククククク、苦しいだろう? 苦しいだろう」


 うん。苦しい。しかもめちゃくちゃに苦しい。

 しかもしかも、上級戦艦などの強いユニットのムービーは特別仕様で更にムービーが長いのだ! 早く進むには強いユニットを使いたいが、強いユニットに限って……とにかく『長くて』『遅い!』

 重い! 進めない! 飛ばせない! この負のクソ要素ループが留まるところを知らない!

 そもそも、このゲーム余りにも単調すぎる。

 まず、ユニット達の攻撃には射程距離があり数マス先からでも攻撃が可能なのだが、それだけに相手を囲んでしまえば全員で一気にぼこぼこにすることが出来る。難易度が低すぎるのだ。

 敵はオクタパス一体……いや、一杯? しかいないし、ユニットも航空機や爆撃機などの飛行可能な戦力の一強であるために、こっちにターンが回って来るたびに適当にそれらで攻撃、たまに上級戦艦でも攻撃。弱い戦艦は長いムービーが嫌なので放置、それだけの作業になって来る。

 10ターン目でついにオクタパスは沈むが、カットインでオクタパスの無機質な死に顔が映り、リザルト画面へ。

 結果の項目は、

 ターン数・10。評価『B』

 被撃墜ユニット数・0。評価『S』

 思考時間・47分。評価『A』

 総合評価・『B』

 ゲームオーバー。

 タイトル画面である。


「……で、次は?」

「んなもんねえよ! 大海獣オクタパスだ、オクタパス以外の敵がいるとでも思ったか!?」

「じゃあ何か? 延々とこいつと戦って総合評価Sを目指せって? それだけの話か?」

「ククク、その通りだ!」


 嗚呼、なるほど。つまり……これだけが全貌というわけだ。俺はコントローラーをぽろりと取り落とす。

 内容が死ぬほどに薄っぺらい癖に無駄にロード時間やら何やらが長すぎてストレスだけ無駄に溜まりまくる。激しい怒りと無力感を味わわせてくれる剛迫が『動』のクソゲーなら、こいつのクソゲーは静かに沼に沈めていくような『静』のクソゲーとでも言うべきものだ。

 まあ、かくして。

 俺と、二人のクソゲークリエイターが創り上げてしまった渾身のクソゲー共の戦いは、終わりを告げた。

 もっとも、これからが――本当の戦いになるわけだが。

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